PCL86超三極管接続V1シングル
定電流式フローティングOPTアンプ
●経緯
実はPCL86フローティングOPTを改造して超三極管接続プッシュプルを作っていたのですが、どうもうまくいかなくて、でも超三極管接続+定電流フローティングOPTをやってみたかったので、単純にシングルにしてみました。シングルとはいえ出力トランスに直流が流れない(よって出力トランスはプッシュプル用を使用)という点は変わらないので、出てくる音は同じ傾向だろうと思います。
なんでまたしても超三極管接続かというと、正統派?300B差動があるので同系統ではそうそう勝てない(並び立てない)というのがあります。なもんでPCL86フローティングOPTの出番がないのでした。あとは暑い夏用です。
●設計
まったくもって超三極管接続V1です。ただし定電流式フローティングOPTですので、B電圧は定電流回路にかけることになり、けっこう高圧です。定電流回路はPCL86フローティングOPTと基本的に同じARITOさんの真似です。多少の誤差は気にならないし、プッシュプルバランス調整もないので固定抵抗としてあります。また、信号ループ最短化のため、出力トランスと出力段カソード、および出力トランスと初段ソース(ここは後に削除)をコンデンサで直結します。
電流は初段も含めて約35mA/ch。これとは別に、スクリーングリッドには、LM317Tを使った定電圧回路から供給します。そんなこんなで、超三極管接続V1のアンプ部のシンプルさに比べて、電源周りがずいぶん大げさになってしまいました。
出力トランスは、できれば5〜6KΩ:8Ωとしたかったのですが、STAXを買ってから出番のないヘッドホンアンプのEF-10-8を流用したため、4KΩ:8Ω(8KΩ:16Ω端子)になります。EF-10-10を使えば5KΩ:8Ω(10KΩ:16Ω端子)ということもできますが買い足すと高いので。普通に8KΩ:8Ωでも、最大出力は少し落ちますが歪みでは有利でしょう。
オリジナルの超三極管接続V1では、初段のひずみがそのままになっている(あるいはカソード抵抗で電流帰還をかける程度)のと、出力段も電圧帰還管の(真空管抵抗としての)非直線性がそのまま残るので、超三極管接続にはめずらしくオーバーオール負帰還をかけることにしました。しかも初段カソードではなくグリッド(FETだからゲート)への帰還です。
出力はスピーカーとヘッドホンの両用にします。ヘッドホン端子には、音声信号とは別にジャック抜き差しに対応するON-ONスイッチ2系統持つものを使用して、ヘッドホン使用時には自動的にスピーカーがオフになるようにします。端子の使い方がわかると、これは便利ですねー。
なお、回路図のアース記号は、他のどのアース記号とつないでも問題ない位置にのみ使用しています。配線の際は、アースが輪を作らないようにという原則は当然ですが、あとは1点だろうが母線だろうがアース記号部分の接続はなんでもオッケーです。
●製作
プッシュプルが頓挫したこともあって、シャーシに組む前にいわゆるバラック状態で配線し、まずDCが想定どおりに安定するかを確認しました。初段ソースのVRを動かして、2KΩの両端=電圧帰還管のバイアスが1.5V(上図の動作点と異なるのは単にこの時の勘違い)になるようにすると……だいたい出力段のP-Kが180Vでした。まあこんなもんでしょう。
続いて、出力トランスと入出力もつないで、簡単に音出ししたら、ボツボツボツボツ〜と発振してしまいました。出力トランスと初段ソースをコンデンサでつないだのがまずかったようです。どうも超三極管接続は、初段周りの信号の回り方というのがもうひとつつかめていませんが、このあたりがプッシュプルでうまくいかない原因なのかも……。
初段2SK30A-Yはヘッドホンアンプの時の余りで、IDSSは1.79mAで揃っています。アイドル時1mAを流すので、1.7〜1.8mAがちょうどよいでしょう。ソースの可変抵抗は、はじめは普通の半固定抵抗でしたが、ちょっと粗いのと、あと回してドライバーを離した瞬間にけっこう大きく変化してしまうため、25回転ポテンションメーターに変更しました。作り直しですが、こんなこともあろうかと?FETはICピン用ソケットに挿していたため無駄にならずにすんでます。
シャーシ加工は、なんだか妙に手間取りました。シャーシ板厚は1mmなので、ドリルの穴あけはまったく楽なのですが、その後のシャーシパンチで30mmの大穴を開けていたら、貫通直前でまったく動かなくなってしまいました。シャーシパンチの軸のネジ目が欠けてボロボロで、引っかかりが大きくなりすぎたのが原因のようです(単に回すだけなら回る)。とりあえずは、円周の半分が切れたら残りは角度を90度変えて、という対処で切り抜けましたが、うーん、次作る前には買い換えないと。
とりあえず外装部品を取り付けてみると、なかなかけっこう小さいもんです。ほぼA5サイズ、300B差動モノラル1台の2/3しかないですよ。
今回、見た目で選んだスピーカー端子(1個380円ぐらい)は、ハンダが乗らなくて、リード線をネジ止めするしかないのが失敗でした。ヒューズホルダーは、背面に余裕がないので配線途中に割り込むタイプを初めて使ってみましたが、使いづらくもないしコンパクトだし良いですね。いったん正常に動作するようになれば、ほとんど取り替える必要もないでしょうし。ボリュームは、前に買ってあったアルプスのクリック付き、端子がラグになっているタイプで扱いやすいです。若松通商で1,800円もしましたが、楽なのでよしとします。ヘッドホン端子は、端子穴外側が樹脂製の、勝手にシャーシアースがとられないタイプです。
配線は、白=電源系ACとヒーター、黒=アースおよびアース同位部分、赤=DC(信号ループ内を含む)、緑=信号AC(DCが乗らない部分)としました。もう1色ぐらい使ってもいいと思う……。
●調整
2SK30AのソースVRを、電圧帰還管カソード抵抗2.0KΩの両端が1.5V(まだ勘違い、最終的には五極部P-Kが200V)になるよう調整して、まず無帰還で聴いてみます。荒い感じはありますが、ハムなどもなく(起動時に少し出る)問題ないようです。各所の電圧を計測……あらLM317Tのin-out間電圧が50Vもあります。耐圧超えすぎ。チェックしたら、電源トランスのB電圧用の巻き線(280V)とSG用の巻き線(250V)を逆に使っていました。B電圧の低下は定電流回路の電圧が縮むだけで、大音量にしなければ何の影響もないので気づきませんでした。修正すると、in-out間10V程度に落ち着いて想定どおりです。
ヒーターには、電源トランスの巻き線の電圧5+5+6.3V=16.3Vを想定して3Ωのドロップ抵抗を入れましたが、実際には巻き線に余裕があるせいで14.9Vとちょっと高めになりました。これはドロップ抵抗に1.2Ωを追加して調整し、14.4〜14.5Vに落ち着きました。
いよいよ負帰還を接続……音が大きくなってしまいました。正帰還ですね。出力トランスの1次側の接続を逆にして対処しました。グリッド……じゃなくて初段ゲートへの帰還(P-G帰還を出力トランス2次側からとった)なので、出力は入力と逆位相になります。実際、特に違和感がないのでこのままですが、イヤな場合はスピーカーを逆につなげばよいでしょう。
ヒートシンクは、いろいろあってとりあえず98x50x17のものをつけてみましたが、ちょっと熱くなりすぎな感じです。そのうち98x70x17で作り直す予定。とりあえずは別のヒートシンクを密着させて応急処置。
●結果
測定時の動作点が本来と少しちがうので参考程度ですが、だいたい負帰還ありでの利得が5.5倍、ダンピングファクターは9.0〜9.3でした。
シングルながら、出力トランスに直流が乗らないので、プッシュプル用小型トランスでもちゃんと低音が出てます。見た目とのギャップが大きくていいかも。信号経路最短接続のコンデンサに220μFを使ったのも良かったのでしょう。300B差動との比較としては、さすがにわずかに低音が軽い気がしますが、規模ほどの差はないと思います。ダンピングファクターが少し大きい分、こっちのほうが微妙に歯切れがいいかも。スピーカーがBBCモニター系とされているS3/5で、やはり(真空管としては)高めのDFのほうが合うようです。PCL86フローティングOPTを300B差動と比べて感じた、中域の線の細さもありません。このへんは超三極管接続の威力でしょうか。300B差動が力皇なら、このアンプはKENTAかとかそういう。
300B差動(モノ2台)が合計280mA、それに対しこのアンプは合計70mAと約1/4、ヒーターも300B差動のドライバE182CC 2本分と同じなので、夏のアンプという目的は果たせたでしょう。これからが冬ですが。
●追記:定電流部の再作成
ヒートシンクが過熱気味(トランジスタの許容範囲ではある)なので、少し大きめに変更するとともに、定電流回路の基板も作り直しました。ヒートシンクは、部品の固定のためネジ目を切るんですが、今までは変に潰してしまったりといった失敗ばかり。改めてARITOさんの作例をよく見たら、そもそも穴はヒートシンクの「谷」の部分にするんですね。ていうかタップにも「貫通穴用」と書いてあるな……。ヒートシンクを買いなおして、改めてネジ穴が「谷」になるよう部品配置を調整したら、ちゃんと開けられました。
回路を再作成して一発目、電源回路から煙が出ましたよ。基板にネジ穴を追加した際に、近所のパターンとネジがショートしてしまったのでした。あとはパターン間がやはりショートしてヒューズが飛んだので、間をマイナスドライバーでごしごし掃除したりして、ようやく復帰しました。また、取り付け位置を1cmぐらい高くして、出力トランスと高さを揃えています。(2006.12.16)
●追記:出力トランス接続の変更
上記のとおり出力トランスは8KΩ:16Ωと接続することで、8Ωスピーカーの場合で出力管の負荷が4KΩになるようにしていますが、差動プッシュプルではないので4KΩロードラインでひいてある線の0mA付近は使えないのでした。それはチトもったいない、てことで8KΩ:8Ωに接続を修正しました(回路図は修正していないのでご注意を)。(2007.11.12)