6BM8超三極管結合V1シングルアンプ(設計編)
★ 設計編 構想から回路図まで
★ 製作編 部品選定から試行錯誤を経て音出しまで
●Who's Next!?
次のアンプを作る……また作んのかよ、という状況で何を作ろうかと考えた時に、真空管アンプに縁がないひとに聴かせる(見せびらかす、とも言う)ためのアンプがあるといいなあと思いました。ひょいと持っていってどう?ってやれるような。どうせならスピーカーもいっしょに動かせるよう、NS-10MMかNS-10MMTを一体化できるようなフレームをアルミで作って一見ミニコンポ風。ボリューム付き外部ソース(iPodやポータブルCD、持ってないけど)専用とすることでボリュームはなしにします。あとはコピーしやすいよう、安く、調整箇所を少なくしたいところです。
●Vengeance
話はさかのぼって、初の(キットではない)自作真空管アンプは、2002年秋に作った6BM8超三極管結合シングルでした(超三結=Super Triode Connection)。宇多さんのクッキー缶回路に山田さんのクッキー缶(ニセモノ)式トランス2段重ねと、定番ですね。しかし今になってみれば、シャーシ加工から部品実装、配線のやりかたなど、まったくお粗末な、回路図どおり(それも怪しい)線がつながっていて音が出るだけの代物です。一応、捨てずに残してはありますが、まあ今後も出番はないでしょう。いい経験であったことには違いないのですが……。
コレクターではないし、基本的に真空管が余ってるのはなんかヤなので、この6BM8超三結で使わなくなった6BM8と6AK5を使って……再び超三結アンプを作ることにしました。雪辱戦です。まあ差動はプリ入れて4台あるしー。単に製作するだけなら(今なら)簡単ですが、超三結をある程度でも理解してからということで、オリジナルの上條さんのサイトや、宇多さんの解説を読んでおくことにします。ややこしい回路にはちがいありませんが、以前と違ってなんとか読み進められるようです。あとせっかくなので、アースやデカップリングに、定電流回路を入れてみたり(上條さんもすでにやってらっしゃる)とか、ぺるけさんのサイトや掲示板で学んだことも生かしていきましょう。手作りアンプの会周辺のみなさん(もちろん、参考にさせていただいてます)とは、ひと味ちがったものに、なる、かな?
●Matt Hardy Version 1
しかし、超三結Version 1(V1)と呼ばれている回路は、わかってくるとなんだかおもしろいです。超三結の本質ではない部分だけど、初段を五極管(動作の素子)にして(理想的には)P-K間定電圧動作で電流振幅のみ(V/I変換、ロードラインは垂直)発生させ、それを上にある電圧帰還管(三極管)のカソード抵抗に伝えることで、カソード抵抗両端=電圧帰還管バイアスと出力管のグリッド信号を発生させる(I/V変換)という。確かに電圧帰還管への信号入力という本来の目的が、そのままだとカソードがアースから浮いているためにむずかしいのを、かえって簡単な実装で済ませることができています。かっこいい。
ただ、意外と各球の動作を図示した資料というのは見つかりません。出力段はいいとして、初段管、電圧帰還管はどうするのか。電圧帰還管カソード抵抗の大きさと流す電流の関係はクリティカルで、抵抗を大きくすれば少ない電流にしないとバイアスが深くなりすぎる=P-K電圧が高くなりすぎるし、抵抗が小さいとじゅうぶんなカソード抵抗両端電圧の振幅が得られません。それに、たとえば1mAとしても、今回使おうとしている6AK5でそんな少ない電流値での特性は、もうバイアスの深い特性曲線の詰まったあたりです。そもそもEp-Ip特性図はスクリーングリッド電圧が120Vしか見つかりません。
●ドゥ・ザ・ハッスル!
わかんないときは、とりあえずわかることを書いてみれ、ということで、作例から電圧帰還管カソード抵抗8.2KΩと5.1KΩの場合のロードライン(右上がりのほぼ直線、SRPPが参考になる)をひいて、出力管えいやっと35mAと3.5KΩのロードライン(これは普通の右下がり)もひいて、それから電圧積み木も描いてみます。「えいやっ」とできるのは、短いなりにいろいろやってきた経験のおかげでしょう。
描いてみれば気づくこともあるもので、電圧帰還管P-K電圧=出力管P-K電圧+K-G電圧(バイアス)なんですね(基本はP-G帰還なんだからすぐ気づけ?)。電圧帰還管P-Kは、初段〜電圧帰還管の電流値と電圧帰還管カソード抵抗によりバイアスが決まり、それと電流値との交点が動作点となります。たとえば電流1mAでカソード抵抗5.1KΩとすると、バイアス-5V、動作点約270Vで、イコール出力管P-K-G電圧ではちょっと高すぎます。あまり電流を減らしたくないけど、0.8mAならバイアス-4Vで215V、これなら出力管P-K 200Vのバイアス約15Vとしてよさそうです。
問題は初段の6AK5。しかしどの作例を見ても、この初段だけは特性図から動作点を選ぶというより、ある程度gmなどが動作範囲内だとふんだら、カソードバイアスの可変抵抗値の調整=実装で決めてしまうようですね。ということでここでもバイアスは何ボルトとか決めずにおき、可変抵抗で電圧帰還管カソード抵抗両端を0から変化させて4Vになるように完成後に調整します。またP-K電圧は、五極管なので低すぎない高すぎないならだいたいオッケーとします。
初段は上にも書いたけどP-K電圧は極端すぎなければOK、出力段定電流回路も動作点にしたがってかさ上げ電圧とかが勝手に決まるので、実は両方とも足元の電圧はなんとでもなるんですね。ということでB電圧は、まず電圧帰還管P-K-Gの219Vに、初段P-K-G(E)はえいやっと50Vとし、出力トランスの直流抵抗が317Ωなので15V、合計=B電圧=285Vぐらいあればいいでしょう!と決まりました。すると出力段定電流回路が70Vぐらい食わされるので、LM317Tの耐圧が35Vなのを考慮して直列に抵抗(1.2KΩ)を挟みます(これは差動の定電流部でもよく使う)。
定電流部の70Vは他の作例同様、初段スクリーングリッド電圧としても利用します。出力段カソードが抵抗の場合は、その電位を安定させる効果を持たせたようですが(この動作はよくわかってない)、この場合は単に電位(とわずかな電流)を出力段カソードからもらうだけです。
前後しますが、定電流回路は、定電圧用3端子レギュレータLM317Tを応用します。LM317TのOut→Adjustには1.25Vの電圧がかかるようになっていて、ここに30Ωを渡すと、In→Out→Adjustに1.25V÷30Ω=42mAが流れます(Adjust電流は無視できる程度の小ささ)。本来はこの定電流を利用して定電圧を作成します(例:6922差動ラインプリアンプのヒーター直流点火部分)が、そこをはしょって定電流だけいただくのです(参考)。定電流ダイオードでは正確に得にくい10mA以上の電流値を作るのに便利です。
この時点になって6AK5の特性図にはスクリーングリッド電圧ごとのEg-Ip曲線というのがあるのに気づきました(遅い)。今までEp-Ip曲線しか使ったことなかったからなあ。これにはEsg=60Vや80Vがあるので、その真ん中ぐらいに70Vという線も追加してみます。するとIp=0.8mAの場合のEg(バイアス)は-2Vと読み取れます。またEgの0.5Vの振幅→Ip変化約0.8mA(gm=1.6mS)→電圧帰還管カソード抵抗5.1KΩにおいて4Vの変化、となり、ここまでで80倍の利得ということになります。
おお、できた。そして超三結V1は、できてしまうとたいへんに部品が少ない。今回はボリュームを付けないので、なおさらです。そういや前に作ったときは、カソードの接地〜B電源のコンデンサを左右別にしていなかったんだよなぁ。
●風車の理論
後になって、上條さんのサイトに、電圧帰還管&出力管を一体に見立てた特性図に動作点とロードラインを書き加えた解説ページを見つけました(ホームページの下のほうで見落としてた)。うむ、ものすごくわかりやすい。というより、これでようやくちゃんとわかったかも。わかってなかったから、前章の無信号時の動作点はいいとしても、信号入力でどうなるかは書けてなかったりします。このページを見習って、新たに今回の設計(出力管SG電圧200V)に合わせた特性図を作成しました。
それにしても低い内部抵抗、きれいな直線性です。もともとの五極管特性のグリッド1V変化分、つまり電流gm変化が、超三結動作ではプレート電圧1Vの変化だけで起こってしまいます。確かに内部抵抗1/gm(gm=6.4mSとして1V÷6.4mS=156Ω)です。なるほど、すごい。
●Rolling Thunder
いったんはこれで回路を決定、実はこの時点で部品もそろえたのですが、腑に落ちない点がひとつありました。初段〜電圧帰還管の信号はどう回ってんの?
ぺるけさんのサイトを読んでいると、よく「信号ループ」という言葉が出てきます。増幅により「電流」が変化する場合、こちらで電流が増えればあちらで減っているわけで、その増えたり減ったり=交流の輪が「信号ループ」であると理解しています。よくあるシングル(超三結も同じ)や差動ではないプッシュプルでは、カソード抵抗にバイパスコンデンサを並列に抱かせていますが、信号ループはこのコンデンサを通って電源回路に入り、電源回路の平滑コンデンサからB電源、プレート負荷抵抗またはOPT、そして真空管へと戻ってきます。
出力段については、当初からカソードとB電源の間を電解コンデンサでつなぎ、またカソードに交流インピーダンスの極端に大きい定電流回路を入れることで、信号ループが電源回路を通らないようにしています(詳しくはぺるけさんのThe Single Amp. Projectを参照)。これにより、信号ループが左右で同じ部分を通ることがなくなり、クロストークの悪化を防げるというのは差動回路と同じです。
しかし初段はよくわかりません。よくある作例では、初段にもカソード抵抗にバイパスコンデンサを並列に抱かせているので、上記のように電源回路を通る信号ループになっているのでしょう。そう思って、初めはB電源を左右別にしていましたが、出力段の信号ループをわざわざ(実際にはこっちが楽)短絡させたのに、初段の信号だけいちいち電源回路を通るのは、なんだかムダっぽいです。でも、どうやってループを小さくする?
考えた結果、初段管〜電圧帰還管の電流変化は、出力段には関係ない(電圧は大いに関係)ので、初段管のカソードと電圧帰還管のプレート間で電流変化は完結させてしまう=コンデンサで連結してしまうことにしました。
こうなってしまえば、初段管のカソード→アースには信号が流れないほうがよいので、おなじみの定電流ダイオード(CRD)で交流的にふさいでしまうことにしました。これでCRDを選別する以外、調整も不要です。信号ループが電源回路を通らなくなったので、電源部の左右デカップリングもなしにしてしまいます。
いやぁ、やっぱり定電流様万々歳でございますですよ。
……さて、ほんとに動くのかねぇ?