PCL86プッシュプルフローティングOPTアンプ
●経緯
7月頃から、6A3全段差動アンプをモノラルツイン化するつもりで作業を進めていて、回路設計、部品集め、シャーシ加工&塗装と、ラグへの部品実装まで終わっていました。あとは配線するだけ……だったんですが、基本的には今あるアンプと同じ内容のため、夏コミをはさんでモチベーションが下がってしまい、1か月ほどまったく手つかずでした。作り直しとはいえ、現行の6A3アンプは(球以外)まるまる残るため、その処分という問題もあります。
そうこうしているうちに、ARITOさんの「71A A級PPフローティングOPTアンプ」のページを見つけました。ARITOさんが以前に作られたA級動作カソード平衡アンプの「出力トランスに直流をまったく重畳しない」という点は興味があったのですが、カソードフォロアーをあまり理解していないのもあって、自分で作ろうとは思いませんでした。
しかしフローティングOPTと呼んでいるこの方式は、要は定電流負荷の増幅回路をそのまま出力段に使っただけで、回路じたいは簡単にできそうです。とはいえ、自分で設計してようやく気づいたんですが、出力段で使うと言うことは、出力管と同じだけ発熱して(最低動作電圧が低い分だけ少ない)、同じだけ電圧振幅するってことなんですね。6A3アンプの球1本分で、52mA×52mA×3.3KΩ負荷=8.9Wにもなります。
●設計
作るからには6A3アンプを置き換えるぐらいの勢いでいきたいものです。しかし前述のとおり、6A3アンプほどの出力を得ようとすると、ストーブを作ることになってしまいます。そこで、普段音楽を聴いているパワーがちゃんと出ればいいと考え、普段の音量で音楽をならしつつ、スピーカー端子のAC電圧を測ってみました(実はACVがmV単位まで測れるテスターを買ったのがごく最近)。音楽なので値はころころ変化しますが、めったに3Vを超えることはないようです。ということで、例えば3.5V出そうとすると、スピーカーが8Ωなので、3.5×3.5÷8=1.53 (W)……1.5Wがちゃんと出れば問題なさそうです。
ARITOさんのアンプが20mA/1本で1.5W(20mA×20mA×4KΩ÷2000×2本=1.6W)だということなので、ちょっとがんばって1本25mA流すことにします。定電流回路は、実装方法を含めてほとんどARITOさんの作例そのままですが、発熱量が増える分、ヒートシンクは大きくします。
前後しますが、球は前から気になっていたPCL86(14GW8=6GW8のヒーター14.5V/300mA版)です。10本2,500円のあれです。シンプルに、初段三極部差動+出力段五極部三結フローティングOPTとします。
(出力段の五極部三結の動作は「PCL86とはどんな球?」を参考にしました。230V、25mA、4KΩ)
その他の部品は、もともと新6A3アンプ用にベーシックアンプをばらしてあったので、その出力トランスFE-25-8を採用します。端子類も新6A3アンプ用に用意したのを使います。電源アンプはPH-185で大きすぎるので、GS-115を新たに買いました。
PCL86のヒーターは14.5Vで、当初は6.3V巻線×2を整流するつもりでしたが、トランスがACで1.5Vしか供給できないので、6.3V+6.3V+5Vを1.0Ω+1.5Ωでドロップしています。定電流回路は5Vを倍電圧整流すればいいかと思っていましたが、同じ巻線にヒーターを同居させると、ヒーターバイアスが+340Vにもなってしまうためダメなのに気づき、急遽ノグチトランスPM0801という小さいトランスを追加することになりました。定電流回路につなげるB電源は、リプルがあっても定電流部の両端に現れるだけで信号に影響はありません。初段も電流値が小さく差動でもあるため、今までで最も小規模な電源回路になりました。
●製作
ARITOさんは定電流回路のトランジスタに2SA1822を使用していましたが、同じ型が見つからず、ラジ館の若松通商で教えてもらった、より高耐圧の2SA1486にしました。ヒートシンクは鈴蘭堂で見つけたL=70、幅146mm、高さ15mmのものです。こういうでかいのがあるのは鈴蘭堂か千石ぐらい? シャーシはノグチトランスの300×160×45の穴なしです。同じサイズのトランス角穴ありが1.5mm厚なのに、これは2mm厚です。現物を見て一瞬ひるみつつも買ってしまいました……。
PowerPointで部品配置を決め、プリントアウトしてシャーシに貼り付けて、ポンチを打って、穴あけです。ポンチは「オートセンターポンチ」という、押し込むだけでガチンと叩いてくれるのを買ってあって、2mm厚で裏当てもいらないので簡単でした。ドリルの穴あけも、数が少ないこともありすんなり終了。問題はその後のシャーシパンチ&ハンドニブラー角穴あけです。シャーシパンチはそもそも1.8mmまでとあって、回すのに全身を使う必要がありました。ハンドニブラーも2mmまでで、両手を組むようにして力を入れないとかじれません。作業後は手のひらが真っ赤でパンパンで、出血はないとはいえ切り傷が十数か所ありました。
ヒートシンクは、単に貫通させてナットで締めるというわけにはいかないため、初めてタップでネジ目を切りました。つぶしちゃいかんと思うと緊張します。超簡易ボール盤が垂直を保つのに便利、と気づくまでに2個つぶしました……。
配線は、特記することはないです。あまりきっちりしてはいないです。アースは、信号ループを通した後に、近場どうしをつないでいます。
定電流用の電源トランスは、穴あけ時に想定していなかったので、取り付けにはベーシックアンプの3段化で紹介されていた、貼り付け式のネジ台座を使ってみました。けっこう強力です。斜めなのはデンジ誘導が……ではなく、スペースの問題です。
●調整と測定
作り終えて、球を挿して問題ないようなら、まず定電流を調整します。同じように実装する場合は、半固定抵抗は上向きにして、150Ωの両端にテスターを当てられる(クリップを引っかけられる)ように、スズメッキ線で端子を作るなどしておきます。150Ωに(25mA−ベース電流)が流れる=150Ωの両端に3.7Vぐらいかかるように半固定抵抗で調整します。プッシュプルの2本でびっちりあわせる必要はないです。
次に、グリッド抵抗の可変抵抗を調整し、出力段プレート間=OPT一次側の両端が0Vになるようにします。可変抵抗をアース側にしておいて、徐々にC側に動かして、それで電位差が増すようならプッシュプルの2本を入れ替えて再調整です。
最後は負帰還量で、初段グリッド=アースなら0で、最大11〜12dBまでかけられます。わたしはとりあえず10dBかけています。今回の製作では、すべての調整はアンプの上面からできるようにしてあります。
裸利得 | 負帰還量 | 帰還後利得 | DF | |
左 | 28.4倍(29.1dB) | 10.0dB | 9.0倍(19.1dB) | 6.9 |
右 | 27.4倍(28.8dB) | 9.7dB | 9.0倍(19.1dB) | 計測忘れ |
とりあえず2日ほど聴いた感じでは、出力不足ということもまったくなく、6A3アンプをこのまま置き換えてしまうかなーという印象です。なにより、幅30cm×奥行き20cmのプリアンプの上から、幅23cm×奥行き35cmのアンプが妙に出っ張ってるなんて状態じゃないのが素敵です。
できれば同じ方式を直熱三極管でやりたいところですが、同じぐらいの出力でとなると、かえって入手しやすい球がなさそうです。2A3系に25mAというのは、ちょっと持て余しすぎだし……。
●クロス中和(2005.11.01追記)
しばらく使っていて、空気感のような抽象的なレベルで6A3アンプのほうが良いように感じました。まあ測定したわけではないんですが、初段が12AX7類似ということもあり、高域特性を高めるためクロス中和を追加しました。いったん完成しているので面倒でしたが、手持ちにあったディップマイカコンデンサ3.3pFをなんとか取り付けました。本来だとCg-pプラスαの容量なんですが、三結のCg-pはどう考えたらいいかわからなかったので、とりあえず少なめです。