300B/6A3全段差動プッシュプルモノラルアンプ
●経緯
PCL86フローティングOPTの時に、もともと6A3全段差動プッシュプルアンプ(旧6A3アンプ)を作り直すつもりだったと書きましたが、結局それを実行に移すことになりました。旧6A3アンプは、重量級電源トランスMX-280を1mm厚のシャーシに乗せていて、前後の重量バランスが悪く、しかも設置位置が床上180cmぐらいなので、移動するのも一苦労&おっかないのです。そこでモノラルツイン化して、重量・形状を多少なりとも動かしやすくすることにしました。
最後の一押しは、ぺるけさんによるベーシックアンプ3段化用選別済みFET/CRD/ZDセット頒布で、この2SK30Aを初段に使えば無選別・無調整でできるなぁというアレからです。てことはFET-低rp双三極管-6A3の全段差動となって、なんだかナイジェルさんの6B4G全段差動とまったく同じです。
●設計
動作については、初段はベーシックアンプ3段化そのまま、ドライバ段は旧6A3アンプと同じです。初段ドレイン電位=次段グリッド電位のバランスは、ぺるけさんによるFET選別頼りで無調整です。ドライバ段の電圧は、直結の前段がFETになった分、下げてあります&動作点は少し上げて余裕を持たせてあります。6DJ8(6922)でも、ピンの接続さえ変えれば動きます。
迷ったのは出力トランスで、旧6A3アンプのRX-40-5(5KΩ:6Ω、8Ωスピーカーなら1次側6.7KΩ)を外して使うか、新たにEF-25-5(5KΩ:8Ω)を用意するか……外見がそろうのもあってEF-25-5にしました。そうなると出力段の負荷が2.5KΩ(1本)になるので、出力段の動作点を2A3シングル動作のセオリーらしい250Vで60mAに変更しました(300Bも考慮して+10Vぐらい)。これだとB電圧が出力段=ドライバ段となってしまうため、チョークの後ろで分岐させています。しかしこのクラスのアンプが250V巻き線で事足りるとは思いませんでした。
シャーシはノグチトランスのS-100(300×160×45)、同社PMC-100M用トランス穴開け済みで、その穴をPH-185サイズに広げて使いました。少し楽です。穴なし版(PCL86フローティングOPTで使った)なら位置が自由ですが、2mm厚なのでもうイヤです。売る側も、だから穴あき版は1.5mm厚なのかも。
部品配置(回路図も)はMicrosoft Visioを使って決めました。前面左側に出力トランスとチョーク、後方右よりに電源トランスとして、バランスをとっています。上面配置だけなら、あと5cm短くても入るんですが、内部がうまく収まりません。
●製作
実装はいつもどおり、ラグ上にパーツを先にハンダ付けし、シャーシに固定してから配線します。初めて一部に端子台を使ってみました。平ラグの代替として2本並べても、幅を取らないのでいいかもしれません。配線は、白:電源AC、黒:アース、赤:DC、緑:信号AC、黄:DC+信号AC、紫:マイナスとなっています。スピーカーが緑ではないのは、端子に合わせた……って緑のほうがよかったなあ。
初段(FET)は、ドライバ段(E182CC)の真裏に、NFBも含めてユニバーサル基板実装をしています。E182CCヘッドホンアンプと同じですが、部品配置がちょっとだけ進化したかも。
UXソケットは、真鍮板を東急ハンズで加工してもらってマウンタを作ってしまいました。市販のものは7cm四方ぐらいありそうですが、これは1本分なら4cm×5cm(2連で12.5cm)です。トランス類の高さがすべて8cmなので、あまり出っ張りすぎないよう出力管を1.5cm沈めてやります。開いた隙間で放熱もできます。
比較的高さのないシャーシなので、特に電解コンデンサに気を使います。450V耐圧だとかなり大きくなってしまうので、鈴商で400Vの47μFを見つけて収めました。B電源はそれでよかったのですが、直流点火の22000μF/10Vは平ラグ込みで高さ45mmと、まったく浮かせる余裕がありません。寝かせると場所をとるし……ということで、シャーシに穴を開けて、ブロックコンデンサ風に中から上に向けて立ててしまいました。これなら放熱にもよいでしょう。逆にもう少し背が高いぐらいのほうが格好がいい?
アースは、出力段グリッド回路〜出力段定電流〜初段まわり(初段NFB回路〜初段入力〜ドライバ段定電流〜シャーシ〜E182CCヒーター)〜B電源末端の順でつながっています。回路図上にアース記号で表されている部分どうしであれば、どうつないでも問題ないはずです(=スピーカー端子からいきなり他のアースにつなぐとかはダメ)。
●確認
そんなわけで配線完了。おそるおそる音出しまで行きましたが、ちゃんと出てます。明らかなノイズもありません。ノー問題、と思いましたが、バイアスが-20V程度しか出ていません。確認したら、出力段グリッド回路の-25Vとアースを逆につないでいました。DCが流れない部分の間違いは、けっこう音が出てしまうものですね。
実は旧6A3アンプでもそうだったのですが、理論どおりの回路ではフィラメント電圧がかなり低めになってしまいました。Sovtek 6A3で5.7〜5.8V、Fullmusic 300Bで4.4〜4.5Vにしかなりません(旧6A3アンプはもう少し出ていたような……)。ちょっと低い程度ならいいんですが、10%はでかいかなあ。結局、6A3では抵抗なし、300Bでは並列に1.2Ωを加えた0.4Ωとし、これで6A3:6.1V、300B:4.8Vとなって許容範囲です。配線による抵抗も含めて実装によって変化しそうなので、いくつか抵抗値を用意して、現物合わせでいきましょう。このアンプの場合は、300B/6A3切り替えスイッチの接点抵抗とかもありそうです。ちなみにスイッチは、レバーをいったん上に引っぱり上げないと切り替えできないタイプのトグルスイッチを使いました(チト高い)。
●簡単な測定
(300B、1KHz、0.1Vrms入力、8Ω負荷、左/右は便宜上の区別)
裸利得 | 負帰還量 | 帰還後利得 | DF | |
左 | 30.1dB(32倍) | 10.1dB | 20.0dB(10倍) | 約8 |
右 | 30.4dB(33倍) | 10.4dB | 20.0dB(10倍) | 約8 |
●まとめ
最終的には、すでにFullmusic 300Bを持っていたこともあり、表題のとおり300Bが主ということになりました。ここ数か月はPCL86フローティングOPTでいい感じだったつもりですが、それに比べてもずいぶん音が厚くなった感じがします。それでいて音が混濁するでもなく、モノラルツインだからといって左右が乖離するでもなく(それは位相が逆だ)、だいぶよさげです。
NFBを抵抗だけで構成していますが、これは単に未調整です。測定しなきゃと思いつつ……。
熱は、前半分(出力管や出力トランス)はぬるい程度ですが、やはり後ろはかなり熱くなります。あと、横に2台並べたときに電源トランスにはさまれることになる、右側の直流点火回路付近に熱の影響が大きそうです。ときどき左右を入れ替えてやるといいかも?
さて次は、1. PCL86超三結PPフローティングOPT、2. STAXドライバーの3段増幅版(FET〜12AU7〜12AU7とか)、3. ダイナミックヘッドホン向けOTL(300Ω負荷)、なんてのがありますが、1は興味はあるけれど今回のを超えられるとは思いにくい、3は出番がなさそう、ということで、やるなら2でしょうか。
●おまけ
幅30cm×奥行き20cmであるソフトンDAC&E182CC差動プリアンプの上に乗せるため、簡単な台を作りました。それぞれ東急ハンズで切ってもらった、MDF板にアガチス?のL字アングルを脚として接着し、制振&安定用に足裏にソルボセイン板を貼っただけの簡単なものです。幅33cm×奥行き30cmで、2台並べて隙間を開けてぴったり、内側にDAC&プリでぴっちりという大きさです。予想以上にジャストフィットでボディーコンシャスでいい感じです。色はめんどくさいので気にしない。
●カップリングコンデンサの変更(2006.07.02追記)
段間の結合コンデンサである4.7μFは、計算上、低域を約0.6Hz(-3dB)までとなっていましたが、ちょっと大きすぎると思い、1.5μFに減らしてみました。計算では約1.6Hzになるけど、低音が弱くなることもなく、音の輪郭のようなものはよりハッキリした感じで良さそうです。