バランス型6DE7全段差動プッシュプルフローティングOPTアンプ

2020.12.19


●経緯

 2020年11月に、唐突にアンプ作りたいが再発。4年前くらいに回路構成だけ考えていた6BQ5のアンプを作ろうと思い、続きを設計して、出力トランスは余り物でよくて、細かい部品を買って、あとはシャーシと電源トランス(いずれも特注)だというところで、ひるんでしまったのでした。ここからさらに4万円ぐらいかかりそうだし……。

 でも何か作りたい、ということで、ホコリをかぶっていたバランス型PCL86超三極管接続V1プッシュプルフローティングOPTアンプ(PCL86アンプ、本ページと合わせてお読みください)を元に、三極管(not多極管の三極管接続)出力のアンプを作ることにしました。そういえば三極管のパワーアンプは300Bという極端なのしか作ったことなかった。良い物ができたら6BQ5アンプは作らなくてもいいかなあと思いつつ……。


●設計

 フローティングOPTとありますが、これは流用元のPCL86アンプがそうだったからで、イチから作るなら普通に出力トランス負荷にしたと思います。その点以外は普通の全段差動にしよう、電源回路はできるだけ使い回そう、2本分くらいならMT9の穴をUSに広げるのもアリか、だったら6BX7GT?、MT9のままでいくなら……ぺるけさんの「情熱の真空管アンプ」の巻末の真空管データ一覧を見ると、6FD7、6DR7、6DE7あたりがよさそうです。この中でドライブ用のユニットが12AU7っぽい6DE7を選びました。初段にFETを入れて三段増幅がちょうどよいです。出力用のユニットがMAX 7Wなので、元のPCL86アンプの定電流回路の33mAで、動作点200V(差動プッシュプルで概算4.3W)というのもそのまま使えます。

 いつもは東欧などで現在も生産されているような球から選ぶのですが、今回はそういうのに関係なく決めたので、入手方法が問題です。AESで@$6.95、ヒーター定格違いの13DE7であれば@$3.90でしたが、送料が最低$22で届くまで日数もかかる。結局、早く欲しかったので、おそらく10数年ぶりのクラシックコンポーネンツで購入してしまいました(@1800円×5本)。

左PCL86、右6DE7

 出力段の電源&定電流回路はPCL86アンプとまったく同じ、ドライブ段&初段の電源は、元のスクリーングリッド電源回路の小改造で済みます。DCバランスサーボも回路構成は同じです。ただしPCL86アンプではICピンソケットに挿しただけだったのを、初段周辺や負帰還にドライブ段の定電流と合わせて、ユニバーサル基板に新たに、ちゃんとはんだ付けして組むことにします。

6DE7(ドライブ段)ロードライン

6DE7(出力段)ロードライン

アンプ部回路

DCバランスサーボ回路

電源回路

定電流回路


●製作

 大部分は流用なので、工作の中心はユニバーサル基板です。サンハヤトのICB-90に初段、負帰還、DCバランスサーボ、ついでにドライブ段の定電流回路も載せることにしたので、完全にパズルです。穴(ランド)がすべて独立の基板は初めてで、自分なりに、1つの穴には「ジャンパ線(0.3mmのスズメッキ線)は3本」あるいは「部品の足+ジャンパ線1本」とルールを決めて、配置しました(回路図も含めていまだにVisio 2003)。TO-92パッケージの端子をショートする以外はこれに従っています。

ICB-90の部品配置

 まず電源回路(上記のとおり変更はわずか)ができた時点で、発煙異臭ヒューズ溶断などはないことを確認。あとは全部作ったところでトランス1次側両端電圧を測ると、どうも安定しない。ここでも外面的は異常はなかったので、とりあえず音を出してみると、左の音が歪んで小さい。これはユニバーサル基板の接続されていない穴と穴の間をマイナスドライバーでゴシゴシ掃除してやったら直ってしまったので、ちゃんと原因を追えていない……。

 それで左右同じ大きさに鳴るようになったが、ものすごい違和感。左右で位相が逆でした。これは、入力端子につないだリード線のHot/Coldが、左右で逆だったためでした。つなぎなおしてあっさり解決。一応の完成です。


●結果

 プッシュプルバランス=出力段のプレート間電位差を測ると(DCバランスサーボのVRはほぼ中央)、どちらもだいたい0.6V、出力トランスの1次側直流抵抗は実測290Ωなので、アンバランスは約2mAです。どこかで見たFE-10-8の許容アンバランスは4.5mAなので許容範囲ですが……。

 そもそもPCL86アンプでは初段ゲートに入れてたDCバランスサーボを、定数もそのまま出力段グリッドに入れたので、調整幅が狭すぎるようです。そこでB2から電流を供給する抵抗を1.5MΩから470KΩに変更しました(回路図は変更後、ICB-90部品配置は変更前)。これで流れる電流は約0.47mA、4.7KΩで調整できるバイアス範囲は4Vp-p(±2V)になり、アンバランス0.0何Vまで追い込めました。PCL86アンプの時はここまでは考えてなかった……。

 なお、電源オフ時に「ぶぶぶっ」というノイズが出ました。ぺるけさんの「平衡型EL34全段差動プッシュプル・モニター・アンプ」の<トラブル対策>にあるモーターボーティングですね。放置しています……。

LR
利得(8Ω)5.38倍(14.6dB)5.32倍(14.5dB)
利得(無負荷)5.94倍5.88倍
DF(ON/OFF法)99

利得は1KHz、0.100V入力で測定

 まだできて数日の段階なのでアレですが、今のところ良いですね。ずっとメインとして使っていたEL34超三極管接続V1差動プッシュプルモノラルアンプより中〜低がしっかりしているように思います。もっと時間がたってどうなるか、次があるとしたら、五極管の6BQ5アンプよりも、300Bアンプのリニューアルの方がいいかもしれません。前からシャーシの構成は考えていますが、なかなかいい感じで決まらなくて……。

 しかし、大部分が流用とはいえ、2週間弱でできてしまうとは……。

Wonder-Ranch by itokei