6BM8超三極管結合V1シングルアンプ(製作編)

2004.04.18

設計編  構想から回路図まで

製作編  部品選定から試行錯誤を経て音出しまで


真空管が、立ったー!
6BM8が斜めなのは、球の底部が曲がってるから……


●人間発電所

 部品選定といっても、大物部品は何らかの製品を想定して設計するので、回路段階でほとんど決まっていたりします。

 B電源トランスは、もともとは東栄変成器ZT-03ES(2次200-220V)で作るつもりでしたが、220Vを整流して(1.3倍)286Vでは足りないということでZT-05ES(2次240Vあり)にしました。ちょっとでかいけど、なんとかシャーシ(後述)に収まるようです。初段に2SK30Aでも使えば電圧を下げられるんですが、6AK5は前提条件だからねぇ。

 ヒーターは同じく東栄のJ632で、簡単に整流してマイナス電源とLED点灯用電源も作っています。実はPMC-100Mが余ってるので、これが使えればトランスひとつですむんですが、高さ8cmのシャーシ内には収まりきらないのでした。L字アングルで横に寝かせる、という手もありますが、まあ今回は材料費節約でいってみます。普通にシャーシ上面にトランスを並べるのであれば、穴あけ以外はPMC-100Mのほうが扱いやすいでしょう(その角穴が問題ではあるが)。

 出力トランスは、やはり東栄のOPT-5S(2.5K-3.5K/4-8)です。6BM8超三結というとT-850などがおなじみで、実際、東栄変成器の店頭で上の電源トランスと「あと出力トランス……」と言おうとしたら、お店のひとが「T-850?」と訊いてくるぐらいで、相当に定着してます。OPT-5Sにしたのは、理論値2W強出るはずのアンプにTシリーズの2.5Wは余裕がない(OPT-5Sは5W)&2段重ねすると見た目まとめづらいからです。だいたい、T-850 2個にすると、OPT-5Sと同じ値段になってしまいます。

 電源部は特に何も考えずに、トランジスタリプルフィルタで構成してみました(慣れた)。2SD798としてありますが、すでに作ってないらしく、自分でもどこで買ったか覚えてません(おそらく秋月電子だと思うけど……)。設計はhFE=200で行っていますが、2SD799や、その後継の2SD1409Aでもだいじょうぶ、たぶん(正直、よく知らないので……)。


●ドリル・ア・ホール・パイルドライバー

 今回のシャーシ構成は、ヘッドホンアンプとまったく同じ製品を同じように上下で使います。別にヘッドホンアンプ&ラインプリアンプと重ねるわけではなく、持ち運びを考えるとコンパクトで形がそろうのが良いのです。ただし、今回は上下シャーシをアルミフレームで連結し、一体のまま動かせるようにします。連結用フレームの取り付けには、PS-13は側面底辺近くのネジ穴をそのまま利用し、YM-180は、そのPS-13に合わせた位置にネジ穴を開けておきます。とりあえずそれだけやって、具体的なフレームの設計は後回し。

部品配置。PowerPointで作成。緑線=2cm間隔(クリックすると別ウィンドウに拡大)

 今回から工具にステップドリル(4〜20mm、約4.5千円)が加わりました。いつもどおりセンターポンチ、1.5mmドリルですべて下穴を開け、あとの4mm以上はすべてステップドリル(+調整にリーマー)です。ただ、最大径20mmのMT9Pソケット穴までやってしまったのはちょっと失敗。ステップドリルは次段との段差でバリを削ってくれるのですが、最大径では次の段差がないので普通のドリルみたいな仕上がりになってしまうのです。シャーシパンチを使えばよかった。とはいえ、上付きソケットで隠れちゃうんですが。


●半田美希

 部品は、基本的にすべてラグの端子間に乗るようにしています。真空管ソケットに直接部品を取り付ければラグは少なくてすみますが、ラグに乗せたほうがなにかと楽です。シャーシへの取り付け前に部品のリード線をラグの穴に通し、ラジオペンチで根元をぎゅっと締めて固定してしまいます。この締めた部分をはんだづけすれば簡単で、端子の穴も大きく残って他の配線がやりやすくなります。ラグの数は多くなりがちですが、シャーシに収まりさえすればいいでしょう。

 アースは、必ず回路図にアース記号で書かれているところで落とします。例えばB電源では、整流ダイオードのすぐ後ではなくブリーダー抵抗300KΩの付近です(詳しくは)。入力のアースは、ミニジャックなので共通ですが、そのまま1本で引き込んで、まず枝を左右に分けてそれぞれ100KΩの片側につなぎます。同様に他のアースポイントも左右共通のアースから引き出す形になるので、いわゆるアース母線式に、結果的になるのではないかと思います。

 B電源のトランジスタやLM317Tの取り付け方法は、ベーシックアンプの解説を参照のこと(ひとんちに振るな)。B電源トランジスタもLM317Tも、約1Wの発熱で、おそらく小さなヒートシンクでも(場所さえあれば)問題ないと思われます。このアンプでは、電源のTrは40円のヒートシンクを使用し、LM317Tはシャーシに取り付けています。

お尻、手作り風味が強すぎ……

 シャーシを2段重ねにしていますが、この間はバナナプラグ&ジャックの安いの(@40円)で接続することにしました。内容はB電源、アース、ヒーター、ヒーターです。当然、ヒーターどうしは離さないほうがいいでしょう。メタルコンセントでもいいのかもしれませんが、プラグが大きくて、このシャーシにはイヤンな感じなのでした。でも使ったバナナは、接点が隠れないからちょっと危ない。


●Stone Cold Stunner

 そんなこんなで、ひとまず組みあがりました。ということで、ヒューズを入れ、まず電源部のみでスイッチオン。……特に煙が上がるでもなく、B電圧もほぼ整流直後の値が出ていてノー問題。次に球を挿して増幅部と電源部を接続して……やはりクサいとかもなく、ヒーターもLEDもついてます。B電源は285Vと、まったくの想定どおりでちょっと感動。よさそうなので、電流値を調整すべく出力管のK-P間にテスターを当てつつ、可変抵抗を変更……あれ?変化がない。調べてみる──回路ではなく資料を──と、まぬけなことに、FETのソースとドレインを逆にしていたのです。実装ミスではなく誤解で。「ソース」という語から、勝手にプラス側(=電流の元)のような気がしてたのでした。

 しかし、今回はなんだか感電しまくりです。実験の意味もあってワニ口クリップ接続をしていた初段のコンデンサのリード線、実は接合部の金属がむき出しの電源接続バナナプラグ、最悪は電源オフ後の出力段100μFに残ってた電荷……。マイナス電源の4700μFは、そもそも役割に対して容量が大きすぎ。おかげで青LEDがなかなか消えません。

 FETの向きを修正したら、再び調整に入ります。テスターを6BM8五極部のプレートとカソード間に当て、200Vぐらいで左右そろえます。普通の超三結だとアース〜五極部カソード間抵抗の電圧を見て電流値を決めますが、定電流回路入りでは当然不要なので、出力管の動作点を合わせるようにしています。

 この時点では、初段の22μFは前ページの回路が怪しげなので、6AK5カソードにだけはんだづけして、片側はクリップでつなぎ替えができるようにしてありました。


●藤原教室

 定電流を入れてアース(=電源)に信号を通さない、というのがあったので、6AK5カソードからのコンデンサの接続先として、下記の4パターンを考えてみました。

(1)6BM8tpプレート、(2)B電源、(3)6AK5プレート、(4)6BM8tカソード

 回路図は(1)なので、これから試す……つもりが、誤って(3)にしていました。テストはヘッドホンで聞いていたのですが、(3)で問題ないように聞こえます。改めて(1)にするとゲインが少なすぎ、(2)ではひずみまくってダメです。(4)は、これが不思議で、1秒聞こえて3秒消える、みたいなことを繰り返します……。

(3)の回路図(クリックすると別ウィンドウに拡大)

 とまあ、一応できたので、右記の回路図をぺるけさんの掲示板に書いたところ、Daluhmannさんにダメ出し(笑)をいただきました。(1)はP-K 100%帰還でゲインがなさすぎ、(2)は出力段Kからの正帰還、(3)は2段フォロアーで超三結ではなくゲインが小さい、(4)は6BM8tのKからの正帰還に大容量のコンデンサで低周波発振では?ということです。まあどれも言われてみればという感じで、言われる前に気づきましょう。(3)がよさそうに聞こえたのは、ヘッドホンを使ったためゲインを正しく判断できなかったからでした。

 結局、普通にカソードからアースにバイパスコンデンサを入れるということに落ち着いてしまったわけで、高インピーダンスの定電流は可変抵抗に戻し、電源部も途中から左右で分けることにしました。


●Woooo!!

 これで回路としてはできあがりました。はず。ゲインもあいかわらず大きい(6A3アンプの数倍?)ですが、まあ許容範囲かなあ。問題はノイズ。ごく低いブーというノイズ、シャーシを触ると減ったりします。また入力ケーブルやソースによって、びーやらざーやらノイズがいろいろ入ります。

 ブーというのは明らかに電源系のハムなので、まずアースをしっかりさせました。立てラグの中点で接触させていたアース母線の、ネジに菊座ワッシャーをかます。シャーシと接していなかった電源部のアースも、電源回路のスペーサーを通して接触させる。初段カソード〜B電源をアース母線に沿わせる。一応、電源トランスのネジにも菊座ワッシャーを挟む。ということで、……少し減ったにはちがいないかな……。

 最後の入力からのノイズは、ケーブルやソースの問題だろうと深く考えずに、トランスにノイズ除去のパーツを追加するとか、発振防止抵抗をグリッドにとか調べていたら、初段のカソードにバイパスコンデンサを入れない回路と、その理由が書かれているのを見つけました。小川さんの超三結ユニバーサルアンプで、初段グリッド抵抗にコンデンサを入れないことで、電流帰還がかかる(信号でバイアスが深く→電流が少なく→カソード抵抗電圧低く→バイアスが浅く)ようにして、ひずみを減らすということです。ひずみの低減はもちろん、ゲインが下がるのも願ったり可名ったり♪なので、試してみましょう。

 カソードのピンからバイパスコンデンサへの線をはずすだけなのでさくっと……なるほどずいぶんゲインが減って、6A3アンプよりちょっと少ないぐらい、じゅうぶん「ちょうど良い」範囲です。それよりも、帰還のおかげか感度が下がったからか、入力系からの余計なノイズは皆無になってしまいました。

 しかしまだです。ブーという低いノイズが消えたわけではありません。試しに電源の整流直後に100μFを追加しても同じなので、電源ではなさそう(設計時から問題ないはず)。取り回しているうちに気づきましたが、シャーシ上の球と球の間に物を通すと、ノイズ量が変化します。ドライバーを球間に立てて、その先をシャーシに触れると、ノイズがふっと消えます。あらあら、ヒーターからのノイズのようです。とりあえずマイナス電源の名残で-8Vのバイアスがかかっているのをアース電位に直して、あとは装飾がらみで消えてくれるはず……。

最終回路図(クリックすると別ウィンドウに拡大)

最終的なB電源回路部分。左端の立てラグはシャーシアース。トランジスタの後のリプルフィルタが回路変更でなくなったので、左の方が余っている。端子の中間どうしをスズメッキ線でつなぐのは端子穴をムダにしない技

電源部全景。右下隅の白いのがスパークキラー

増幅部全景。LEDはユニバーサル基板のカケラに付けて配線し、シャーシとはエポキシ系接着剤で固めてしまった


●Shopzone

 部品表です。選別する部分がないのでコピーもしやすいだろう(する?)と思い、すべてリストアップしてみました。一応、買った時点・店ではこの値段でしたということで、これより安い高い売ってない場合もあるかと思います。2万円を握り締めてアンプが作れるかも!?と思いましたが、ちょっとムリでした。そもそも「日本国内であればどこに住んでいても」になってないので、まあ「2万5千円握り締めて秋葉原に行ってアンプを作る」ぐらいでしょうか。なお、消費税総額表示ではありません。

部品名スペック・品名など単価個数金額備考
外装部品・AC電源
シャーシ上タカチYM-180930 1 930  
シャーシ下リードPS-131,040 1 1,040  
ゴム足 10 8 80  
スピーカー端子バナナプラグ対応80 4 320 赤×2、黒×2
ステレオミニジャック3.5mm50 1 50  
電源ジャック 100 1 100  
電源ケーブル 700 1 700  
ヒューズホルダーミゼット150 1 150  
ヒューズミゼット 1A30 1 30  
電源スイッチLED内蔵 1  150円
電源スイッチLEDなし100 1 100 単体LEDを使用
スパークキラー125V以上120 1 120  
バナナジャック 40 8 320 シャーシ間接続用
バナナプラグ 40 8 320 シャーシ間接続用
増幅部
入力抵抗100KΩ30 2 60 Philips金皮1/2W
初段管6AK5東芝800 2 1,600 クラシックコンポーネンツ
初段管ソケットMT7P280 2 560  
初段カソード可変抵抗5KΩ70 2 140  
ユニバーサル基板 150 1 150 ネジ穴のあるもの
電圧帰還管・出力管6BM8 Sovtek900 2 1,800 クラシックコンポーネンツ
ペア1,800円
電圧帰還管・出力管ソケットMT9P300 2 600  
電圧帰還管カソード抵抗5.1KΩ30 2 60  
出力段定電流源LM317T100 2 200  
出力段定電流源抵抗30Ω30 2 60  
出力段定電流源降圧抵抗セメント3KΩ 5W80 2 160  
出力段定電流源降圧抵抗セメント2KΩ 5W60 2 120  
出力段バイパスコンデンサ電解100μF 350V580 2 1,160  
出力トランス東栄変成器OPT-5S
3.5KΩ-8Ω
1,700 2 3,400  
電源回路(B電源)
電源トランス(B電源)東栄変成器ZT-05ES
AC240V 100mA以上
2,800 1 2,800  
整流ダイオード1N4007
600V 1A以上
15 4 60 10本150円
ドロップ抵抗酸化金属22Ω 1W30 1 30  
平滑コンデンサ電解100μF 350V580 1 580  
トランジスタ2SD798 hFE≧200150 1 150  
Trベース抵抗9.1KΩ30 1 30  
Trブリーダー抵抗560KΩ30 1 30  
Tr平滑コンデンサ電解47μF 350V330 1 330  
ドロップ抵抗酸化金属240Ω 2W40 2 80  
平滑コンデンサ電解47μF 350V330 2 660  
ブリーダー抵抗560KΩ30 2 60  
電源回路(ヒーター・LED)
電源トランス(ヒーター)東栄変成器J632
AC6.3V 2A以上
860 1 860  
発光ダイオード(LED)青3mm広角180 1 180  
LED電源整流ダイオード1N400715 1 15 10本150円
LED電源平滑コンデンサ4700μF 10V300 1 300  
LED電源ドロップ抵抗620Ω30 1 30 白青LEDは300Ω
配線部品、消耗品など(概算2,000) 
スペーサー1cm片側ネジ    
B電源平ラグ8×2P    
立てラグ各種     
Trヒートシンク     
LM317T絶縁マイカシート     
LM317T絶縁ブッシュ     
4mmネジ+ナット     
3mmネジ+ナット     
菊座ワッシャー4mm、3mm    
配線材     
はんだ     
合計 22,000〜23,000 

 W数の書いてあるものは、それに従ってください。5Wの指定でも実際には0.8W〜1.3W程度の発熱だったりしますが、これはぺるけさんの方針に倣って、4倍のマージンをとっているからです。そういう意味では5Wでなく2Wで済ます、ということも一応問題ないはずですが、そのぶん強く発熱しますので、周囲の部品配置に注意してください(コンデンサは近づけない、など)。

 W数の書いていない抵抗は1/2Wです。Philips金皮を使っているのは、単に誤差1%で詳細に計測しなくてもいいやぐらいの意味(精度を金で買うヤツ)で、なんでもかまいません。読み違いおよび破損の確認のために、取り付け時に簡単にテスターを当てています。1%は精度が高い分、抵抗値を表す色帯が5本あり(5%では4本)、位取りを表す色が5%ものとひとつずれているので注意してください(470KΩ1%:黄・紫・黒・橙・茶、470KΩ5%:黄・紫・黄・金)。この回路では、5.1KΩはゲインに直接関係のある部品なので左右を合わせてください。あとは一応LM317Tの30Ωを左右合わせるぐらいで、他は特に精度は必要ありません。

 可変抵抗は、初めは使わないつもりだったので、場所がなく内蔵にしてしまいましたが、可能であればボリューム形の小さいものを使用して外に軸を出し、計測ポイントにチップジャックをつなぎ、シャーシを開けずに調整できるようにしたほうが楽でしょう。

 ちなみに、ボリュームを付ける場合はAカーブ20K〜100KΩを使用し、元回路の100KΩの代わりにボリュームオープン故障時保護のために470KΩを取り付けます。


●Holla, If Ya Hear Me!

 音です。低音出ています。同じヘッドホンで聴いても差動PPのヘッドホンアンプより強いです。ダンピングファクターの差か、6A3アンプよりは少し緩い感じがあります。その他音の充実度的なものも6A3アンプのほうがちょっといいですが、材料費が4倍以上してますからねぇ。まあ、こういう話は自分の好みに照らさないとわからないてことで。見せびらかしアンプという目的にはじゅうぶんすぎるでしょう。「2万かよ!?」(サバ読み)。

ひとまずこんな感じ。ひとまず


 →(未)

Wonder-Ranch by itokei