6922差動ラインプリアンプ

2004.02.29

セレクタのつまみは、もうちょっと「薄い」ものにしたい。


●AVひも混乱

これまで使ってたラインセレクター。背面は端子間隔が中途半端で、端子を増設するという手も使えない。

 これまでわたしの部屋では、2in-2outラインセレクタを自作して使用していました。ヘッドホンアンプと同じサイズで、ヘッドホンアンプに挟んで設置し、入力はDAC(MacまたはCDプレイヤー)とビデオ系(セレクタのモニター出力)、出力はスピーカー用とヘッドホン用を選べるようになっています。問題は入力で、できればMac→DACとCDプレイヤーは、つなぎ替えなどが必要ないよう、スイッチで切り替えられるようにしたいところです(CDはプレイヤー本体アナログ出力になってしまうけど)。

 セレクタをまた作るという手もなくもないですが、実はセレクタの配線というのは地味で量が多くてつまらないので、タダではやりたくねぇのでした。


●プリ○○○!

 そんな中、今年もぺるけさんの掲示板オフ会が行われました前回と違い、標準シャーシのアンプは少ししかなく、回路構成も含めてバラエティーに富んだものでした。

 そこで、EL34が2本立った、わたしのヘッドホンアンプを倍の大きさにしたようなスタイルのアンプが目に入りました。うちのと親子〜とかてきとーに想像してたのですが、実はそれはラインアンプ(EL34で!)だったのでした。いくつかそのラインアンプを通して聴きましたが、なんかイイ気がします。また、ぺるけさんの差動ライン・プリ・アンプも聴いてみたりして、これは自分でもプリアンプを作ろう、という気になりました。考えてみれば、何を基準にプリアンプがいいと思ったのかよくわかりませんが。

 プリアンプの機能のひとつに、利得を補完するというのがあります。出力レベルの小さい機器のためにパワーアンプの前に少し増幅しておくのですが、うちに出力の小さい機器はなく、またパワーアンプにも利得の不足はありません(少な目のベーシックアンプでも)。じゃあ、なんで作るのかというと、前出のセレクタの強化と、ボリューム調整の一元化、あとは、なんか作りたかったから、ってことなんだろうなあ……。


●サドーダンサー

 回路の基本は、ぺるけさんの差動ライン・プリ・アンプそのままです。この不思議な回路は、差動増幅回路のプレート片側からだけ信号を取り出し出力し、アンプ部に配置する47μFを通ってプレートに戻ってくる信号ループを形成します。パワーアンプでは差動=平衡から不平衡へは出力トランスが変換してくれるのですが、そういう装置がないので平衡の半分だけ使うんですね。

 増幅部はほとんどコピーですが、電源トランスがちがうため、B電源が低めになるように動作点とプレート負荷を変えてあります。そのぶん利得も減っているはずですが、もともと利得は必要ではないので、NFB抵抗の値もあまり深く考えずほぼ同じです。まあ大差ないでしょう(いいのか?)。

ロードライン

増幅部回路図。普通の「差動レイアウト」で描いてみたけど、かえってわかりにくかったかも?

 その電源トランスには、ヘッドホンアンプの電源部と同じシャーシ(リードPS-13、W13xH8xD18)に収めるためソフトンM2-PWTを選択しました。150Vという低いB電圧用巻き線と、ヒーター用8V巻き線が同居しているトランスで、コアむき出しですが小さく薄いものです。今回の回路用としては、大きさも巻き線も過不足ないピッタリのスペックです(というよりこんなの用に設計したのでしょう)。

電源回路図。ちなみに回路図はPhotoshop&タブレットで描いている。

 B電源はトランジスタリプルフィルターで平滑しています。ヘッドホンアンプと同じ(余分に買ってた)2SD798を使い、hFE≧100として設計しています(余裕ありすぎ?)。ヘッドホンアンプのときは、hFEが設計と大きくかけ離れていたらどうしよう?とか思っていて、使ったときのページにも不安そうに書いてますが、この回路構成はhFEが大きい分には良いことは、あれから(最近)理解できたので、今回は「hFE 100はよゆーで出るでしょう」で作ってあります。そもそもロードラインは最も電圧が低かった場合を想定しているので、50V増えたとしても右にスライドするだけでノー問題です。

 C電源は、M2-PWTの説明にしたがってLM317Tによる定電圧回路でヒーター用直流6.3Vを作り、電位の高い側をアースにつないで反対を-6.3Vのマイナス電源に、ついでにスイッチのLED電源にもしています。LM317Tは、差動の定電流回路では何度も使いましたが、定電流ができれば定電圧ができるのも道理で、というか初めて本来の使い方してみました。


●ジッソーくん

 いよいよ箱に収めます。狭いです。まず4inと2out用にRCAピンジャック4系統と2系統のパネルを用意しましたが、並べると幅が足りません。上下に配置という手もありましたが、4隅のネジ穴をひとつずつ切り欠いて、お互いに食い込むようにしてます。実は前面と背面がネジ止めされないシャーシなので、ケーブルを挿す時に少したわむのがイヤンな感じです。ちなみに100Vの取り込みは「ブタコネ」って売っている、ラジカセなんかでよく使われていた本官の目玉形コネクタを使っています。取り外しができて小さいのが良いです。

さすがに1端子ごとの部品を使う気にはならなかった。

 製作の手順としては、ラグ上の部品と配線、電源〜トランス配線、入力端子〜ロータリースイッチ配線、出力端子〜ロータリースイッチ配線、ロータリースイッチ〜ボリューム配線の順で作り、この時点で出力ロータリースイッチ、ボリュームからは増幅部への線を出した状態にしておきます。いわゆるまな板実装は初めてです。

見るだけで気が滅入ってくるRCA端子〜ロータリースイッチ〜ボリューム配線。

2階建て電源は、実はヘッドホンアンプでもやっているが、こっちのほうが余裕がない。

 電源部は2階建てです。下にB電源、上にヒーター&マイナス電源回路を置いて、収まらない電解コンデンサとトランジスタなどは斜めに張り出してます。これも電源トランスが薄い=上空が空いているおかげで、端子が足りなければ、ラグもトランスの上に飛び込み板のように出っ張らせようかとも思いましたが。

 増幅部は、ソケットとスペーサーの周りに4P1Lラグを4枚もくっつけたため、余裕ですべての部品を取り付けられました。基本的にはソケットに直接、部品を取り付けないようにしていて、入力グリッドの2.2KΩ以外はすべてラグの端子間に乗せています。

ここは比較的楽しかった。電源部もそうだが、写真は最終的な状態ではないのでチューイせよ。

 アンプといいつつ、実はいちばんきついのは(前の写真でわかるように)入出力のラインだったりします。1系統につき、左、右とアース(左右共通)も切り替えようとしたので、入力は4系統×3本、出力が2系統×3本の、計18本が前後を行きかうことになりました。アルプス製ロータリースイッチの端子は弱そうな感じでちょっと怖いです。

これだけあれば、まあ困らんやね。出力は、いざとなればアダプタで単に分岐させて増やしてもいい。


●Kはキロ

 いよいよできあがり。球を挿さずに電源オン……何も燃えてません。LEDも光ってます。球を挿して電源オン……ヒーターも光るしB電圧も、ちょっと高いけど(高いほうにずれる分には)だいじょうぶ。簡単につないで音を出すと……うむ、出てます。

 B電圧は予定の160Vに比べ+17〜8V出ています。M2-PWTの説明に「ブリッジ整流で約210V(≒150V×√2)が得られる」とありますが、実際に出るとは思っていませんでした。いつもどおり、約1.3倍の190Vとして回路を決めていたたのですが、しっかり207Vぐらい出ているのでちょっとびっくり。まあロードラインが右にほぼ同じ電圧分ずれるだけで問題はないですが、気分的にちょっと下げようと思い、2SD798の次に入れていた200Ωと直列に抵抗を追加することにしました。

設計時点の電源部回路図(クリックすると別ウィンドウに拡大)。

 てきとーに計算して、じゃあ470を入れよう(11Vぐらい下がる)ということで抵抗を追加。してみると……音はでない、B電圧を測るとテスターはマイナスを示す。なんじゃこりゃー?とかなってしまい、そのまま一晩悩んでました。原因はマヌケというか、470という数字が出た瞬間になぜか470Kと頭の中で変化して、そのまま疑問も持たず取り付けてしまっていたのでした。まあ結局は、そもそもB電源の左右デカップリングするのを忘れていたので、最終的にはこの部分は最終回路図のとおり作り直すことになったのですが。

 さてほんとにできあがって、いよいよ線をつないで使ってみます。まず、セレクタはちゃんと動作します。音は……なんだか「じー」というノイズが、中央やや左よりから聞こえます……トランスの電磁誘導拾ってる?ノイズの位置と、左右の球とトランスの位置関係がだいたい同じです。ボリューム位置が変わってもノイズ量が変わらないので、うーんトランスの真上を通る出力の線が拾ってるのだろうか……。


●あしたのジー

 「じー」という音は、トランスの電磁誘導による50Hzや電源回路のリプルによる100Hzの「ぶー」というのとはちがうように思います。ぺるけさんの掲示板で症状を書いたところ、Daluhmannさんから、電源平滑回路が弱いのではないか、リプルが乗っていると高調波が多く「じー」になるのではないかと指摘がありました。

 電源は「私の設計マニュアル」を参考に、トランジスタ・リプルフィルタのブリーダー抵抗を付けたバージョンで組んでいましたが、これをブリーダー抵抗なしにすれば、安定性は落ちるがフィルタ性能が上がるというアドバイスもいただいて、確かに160V〜180Vぐらいになればいいという程度なので採用するつもりでした。

 とりあえず中を開けて、一応、電源トランスの影響を確認しましたが、関係ないようです。増幅部のラグにコアが当たってるのに、さすが漏れ磁束の少ないと言われるRコアというところでしょうか。と感心していたところ、ふと気づきました。増幅回路左側の底の隅っこに、電源のスイッチへの線が通っているのです。もしやと思い、これを動かしてみると……大当たり、ノイズの量も変化します。

この時点の内部。画面下側の隅を這う白いより線がスイッチへの配線。ノイズが乗るのもムリはない?

 わかってみると簡単なことで、ぺるけさんのアドバイスもあって(ご自身でも同じようなことされてる)、スイッチ付近の電源線をシールド線にして、底ではなく天井付近を這わせるようにしたところ、このアンプ内でのノイズは皆無になりました。

スイッチの線をシールド線に変更。

 ところで、初めはボリューム位置にかかわらずノイズ量が同じでしたが、いざ調査となるとボリューム位置によって変化します。このラインプリアンプ内のノイズは上記のスイッチ周りの配線が原因でしたが、それ以外にも入力機器やケーブルなどによって入ってくるノイズがあるようです。ごちゃごちゃしてる機器の後ろの線の置き方にも注意した方が良さそうです(当然?)。


●今後の身の振り方

これがやりたくて、わざわざこのシャーシに収めたのであった。

 さて、いいかげんアンプから離れて絵を描け(気分的にも作業場所的にもどちらかしかできない)という気もしてますが、まあこれで一段落のはずです。もう作る理由がありません。

 とはいえ、見せびらかし用に小さいスピーカー用アンプがあると面白いかも。真空管アンプこんなだよ〜てことで、NS-10Mとならべて、フレームを作ってスピーカーとアンプを一体化させて、再生はiPod miniとかあればいいかな、回路は(キットではない)初の自作だった超三結アンプ(宇多さんのコピー)を今の技術でリメイクしてとか、そんな感じで。まあでも、今度やるからには超三結の動作をある程度は理解しておかないとなあ。


●参考

ぺるけさん「情熱の真空管」より「差動ライン・プリ・アンプ」

Wonder-Ranch by itokei