バランス型6A3全段差動プッシュプルモノラルアンプ
●経緯
バランス型6DE7全段差動プッシュプルアンプ(以下、6DE7アンプ)を聴いていて、やっぱりネイティブの三極管だといいのかなあと感じ、それなら10Wくらい出力がとれるやつがほしい(6DE7アンプは4Wちょっと)ということで、14年前から変わらずある300B/6A3全段差動プッシュプルモノラルアンプ(以下、300B/6A3アンプ)を新調したい気分が高まってきました。あれは入力端子がゆるんでいたり、デザイン的にも上面に隙間が多かったりと、工作の甘さというか、今ならこうはしないというのがいろいろあります。傍熱管で同じくらいの出力が取れる三極管があれば、イチから新しく作るというのもあったのですが、入手性を考えると2A3系しかありません。
300B/6A3アンプ新調の構想自体は4年前からあって、主にシャーシサイズと部品配置がいい感じに決まらず、着手までは至っていませんでした。後述しますが、そのへんが自分の中で解消されていよいよ着手です。この規模のアンプはこれが最後のつもりで……。
●設計
元の300B/6A3アンプをベースに、バランス入力化、フィラメント直流点火の簡略化などを行っています。
初段FETは、2SK30A-Yも手元にけっこうありますが、台湾製の現行品だという2SK303L-V3というのを採用してみました。秋月電子で最終的に40本買ってidssで選別しています。20本、20本と時間差で買ったら、idssの傾向が0.4~0.6mAくらいずれていたので、個体差に加えロット差のようなものもあるのかもしれません。
初段直結のドライブ段は、前のE182CCから、今回は見た目の統一感重視で6SN7GTに変えています(後で出てくるQUAD IIでは、そこはMT管だったんですけどね)。Sovtek製を購入(Antique Electronic Supplyを初利用)したことでオールSovtek管アンプになりました。ベーシックアンプ以来のMT管の無い真空管アンプでもあります。
出力段の動作点は、6A3ということで250V/60mA/2.5KΩという、2A3 A級のごくありふれた設定です。出力トランスの2次側は4Ωに6Ωのスピーカーをつなぐので、実際には3KΩくらいになります。バイアスは約45Vの内、25Vをマイナスに引き込んでいます。
シャーシの構成については、それこそ4年前から気が向くと図面をいじっていたのですが、どうにも間延びした感じになってしまい、それが主要因で着手まで至りませんでした。最終的に、部品配置はQUAD IIの真似をする、でっかい300Bには対応せずに6A3専用と決めて、ようやくいろいろ固まりました。真似したのは配置だけで、球より背の高いトランスカバーにするまではやっていません。端子等を含まないシャーシサイズはW120×D320×H50で、実際QUAD II(Classic)とほぼ同じ大きさになりました。
シャーシ上面の密度が上がったことで、その分狭くなる内部の配置が問題になってきますが、マイナス電源、初段・負帰還、2つの定電流を72mm×47mmのユニバーサル基板1枚に乗せることで、コンパクトに収めました。ラグ板やユニバーサル基板の部品配置設計は、Visioでテンプレート的なものを作っておくと便利です。このへんは去年からの6DE7アンプで進歩しました。
小さい部品がそろった頃になって、6SN7GTの特性が元の300B/6A3アンプで使っていたE182CCとは違う、具体的にはgmが小さい(Ep-Ip動作曲線が立っていない)ため、B電圧を50Vくらい上げないといけないのに気づきました。気づくの遅すぎ。
ドライブ段のB電圧を50V上げるには……前は電源トランスの250V巻き線からすべてのB電源を作っていましたが、DC 320Vを得ようとすると280V巻き線(整流直後約350V)を使わなければいけません。出力段は前作と同じ250V巻き線→DC 280Vでいいので、それと別系統で取り出す必要があります。結果として電源回路は出力段B、初段+ドライブ段B、マイナスの3系統になってしまいました。
回路図上の「(3.3Ω)」というのは、出力トランス1次側直流抵抗値のアンバランスを補正するもので、手持ちの10Ω 3本を並列にしています。
●製作
シャーシの製作は、またしても株式会社 奥澤さんに依頼しました。いつもは弁当箱アルミケースをベースに作ってもらうのですが、今回は奥澤さんから、開発中新商品のプロトタイプという新型シャーシでの製作の打診をいただいたので、そちらにしてみました。超かっこいい……。 ※プロトタイプのため、製品化された場合に仕様が異なる可能性があります
シャーシ本体と、前面・背面パネルや底板を固定するのは直接ではなく、左右の長辺方向にある別のパーツを介しています。こういう凝った構造である分ネジは多いです。インシュレータの固定も含めれば30本。
前面・背面パネルは3mm厚でヘアライン加工済み、パネル裏にシャーシ本体の断面と噛み合う溝が彫ってあるという凝りよう。
また、今回はUXソケット落とし込み用のサブプレートも新たに作ってもらいました。300B/6A3アンプで使っていたのは、300Bが2本乗るようなもので間隔が広く融通が利かないので、今回は1本ずつのコンパクトなものにしました。
シャーシは新製ですが、トランス、チョーク、真空管とUXソケットは300B/6A3アンプのものを流用します。もうトランスを新たに買う贅沢はできない……。端子やスイッチは没にした6BQ5アンプ用に揃えたものがあって、買い足したのはノイトリックのコンボ端子くらいです。
部品集めは基本的には通販ですが、一部だけ秋葉原で買い物しました(例のワクチンを打ちに大手町まで行くついでに)。部品表はMacのNumbersで作ってiCloudにおいておくと、そのままiPhoneで買い物メモになるので便利です。パーツ屋さんは意外とPayPayが使えます。
シャーシと6SN7GTが届くまで時間があるので、ラグ板とユニバーサル基板を作り始めます。使うユニバーサル基板はICB-86(G)、1つの穴に部品およびリード線は1本、ジャンパ線は2本まで。ジャンパ線の通り道はショートしても大丈夫なように配置しています。1つの穴に3本通さないので0.5mmスズメッキ線が使えます。ちょっと遠いところは0Ω抵抗器が便利です。
「6SN7GT-G」という接続点が不自然なのは、その線を繋ごうと思った時にようやく、それを用意し忘れたことに気づいたためです。10KΩ抵抗のリード線にはんだ付けしてあります……。
6A3直流点火は、もともと0.3Ω程度の抵抗を挟むつもりでしたが、やってみるとフィラメント電圧が出ない(0.27Ωを入れると5.2Vくらい)のでナシ。そういえば300B/6A3アンプも同じ経緯で抵抗ナシにしたのでした。
組み上がったところでチェック。まず各部の直流電位を測ったところ、B2が予定より20Vほど高い。これは280V巻き線の整流ダイオード直後の電圧が予想(280V×1.25倍)より高かった(280V×1.32倍)ためです。この場所としては大差ないとも言えますが、後で、390Ω×2だったドロップ抵抗を2KΩに変えました(回路図は変更済み)。
想定との違いはそれくらいだったので、音が出るだろうと信号を入れてみたところ……出ない。ユニバーサル基板上の入力の受けのところで交流電圧を測ってみると、0のままです……? そこで気づいたのですが、入力端子からの線と、ドライブ段グリッドからの線が逆になっていました(配線の最後に残っていたのがその2か所)。これを修正して、普通に鳴るようになりました。負帰還の位相も合ってました。
細かいところで、シャーシの組み立て用ネジの一部はポリカーボネート(プラ)製に変えました。シャーシには皿ネジ用の座刳りとネジ目が切ってありますが、ちょっと強く締めただけですぐ潰れてしまいそうなので、どうせ潰れるならネジ側と思って柔らかい素材のものを選びました。ただ、入手性があまり良くない。そこそこ近場で5件ほどホームセンターを見て、あったのは1件だけでした(ナベネジはもう1件あったかな)。
●結果
電圧利得と、そこから出せるダンピングファクターをざっくり算出しました。出力トランスの4Ω巻き線に8Ωダミーロードを使っているので、利得は少し大きめになっているはずです。
1 | 2 | |
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無帰還利得(無負荷) | 32.9dB(44.4倍) | 33.2dB(45.9倍) |
無帰還利得(8Ω) | 30.7dB(34.2倍) | 31.5dB(37.4倍) |
無帰還DF(ON/OFF法) | 3.5 | 4 |
利得(無負荷) | 22.7dB(13.6倍) | 22.8dB(13.8倍) |
利得(8Ω) | 21.8dB(12.3倍) | 22.1dB(12.7倍) |
DF(ON/OFF法) | 9 | 10 |
負帰還量 | -8.9dB | -9.4dB |
音は、まだ使い始めですが、今まで作ったのの中でいちばん良いかも。好きだったけど出力の小さすぎたPCL86超三極管接続V1シングル定電流式フローティングOPTアンプの歯切れと、元の300B/6A3アンプの重厚感、いいとこ取りできた気がします。
これで現存するパワーアンプは、すべてバランス入力になってしまいました。どれもフォーンジャックが使えるので、入力にRCA→モノラルフォーンジャックの変換を挿してやれば簡単に通常の2線の入力になります。
次は……バランス型EL34超三極管接続V1差動プッシュプルモノラルアンプのユニバーサル基板が汚いので、作り直し&DCバランスサーボ搭載といきたいところですが、さて。