ヘッドホンアンプVersion 1.0
7119単段差動プッシュプルヘッドホンアンプ
Version 1.0 単段、一体型。トランスの誘導ノイズに苦しめられる
Version 1.1 電源部とアンプ部を分割。ノイズ問題解消だが……
Version 2.0 FETを追加し、2段増幅に。ひとまず完成
Version 2.1 出力トランスを豪華に換装
●回路図
Version 1.0 Ep=110V Ip=12.25mA Rp=5Kohm Eg=-3.5V IN>--+ | VR50K<------+ +------+ | | P | 8K 8 | -+++--+------G<7119> +---++++--+-->OUT | ||| K |||| | ~ ||+--+ +----+ B+>---+||| R27/1W ||| | | K |||| | -+++--)----)-G<7119> +---++++--+-->OUT ST-17A | | P | ITPP-3W | ~ | +------+ ~ I +-A<LM317T> | O +-R51-+ | ~ +-SW-+ 100V (128V) (115V) >--+-SK-+--++++--+->|-+--R20/1W--+--R120/2W-+--R120/2W-+-->B+ | |||| +-|<-)+ | | | AC100V | |||| || C100/160 C100/160 C100/160 | |||| +->|-+| | | | >-FUSE-+)--++++--+-|<--+---------+----------+----------+--<E 1A || Z-02ES (0V) (0V) || || 6.3V |+--++++----+--+ | |||| | | HEATER | |||| > > 640mA*2(7119) | |||| | | 900mA*2(5687,7044) +---++++----+--+ J632 | ~
●ロードライン
大げさな名前の割には、単段なので回路はやっぱり簡単です。キモはLM317Tを使った定電流部で、「差動」のゆえんです。ここではステレオ左右それぞれ25mAが流れるように、AdjustとOutの端子間を51Ωでつなぎます(Adjust-Out電圧1.25V÷51Ω≒0.025A)。
7119=E182CCを採用した理由は、「単段」のアンプを探していたらいくつか見つかったうちのひとつにこれがあったためで、5842なども考えましたが、結局7119に落ち着きました。
初めの段階、あるいは5842を想定した時点では、プレート電圧を150Vぐらいで考えていたのですが、アンプ用の電源トランスというと、まず200V以上の2次側電圧なので、整流すると260V以上にもなってしまいます。100Vも平滑回路の抵抗で落とすとなると、これはもうアンプ付きストーブです。
そこで思い切って、AC 100Vで作れる115Vぐらいのプレート電圧でロードラインを引きなおし、その時点で内部抵抗の低い7119が挙がりました。初めは家庭用電源を直接整流すればー?と思っていましたが、これはぺるけさんの掲示板で即却下(危険、ノイズ)されました(笑)。
では電源は、というと、東栄変成器のZ-02ESを使うことにしました。2次側100-110-115-120Vで、100Vタップを整流して(ぺるけさんの式、AC電圧×1.28=整流後DC電圧)128Vが得られます。ただ、これにはヒーター用タップはないので、同じく東栄のJ-632(3.15-5-6.3V/2A)を別に用意します。かさばるけどしかたがない。
これなら平滑部の抵抗で下げる電圧は13V、アンプに流す電流は50mAなので、120Ωで消費する電力は120Ω×0.05A×0.05Aで0.3Wにすぎません(2Wの容量はかなりの余裕)。ついでに平滑部の電解コンデンサも、耐圧160Vでじゅうぶんです(方針変更も想定して実際には200Vを使ったけど、入手しにくそう)。
なお、出力トランスの二次側に入っている抵抗は、ヘッドホン使用時のインピーダンス調整です。スピーカーと違ってインピーダンスが16Ω〜300Ω(600Ωも? うちのソニーMDR-F1はなぜか12Ω)と大きく、しかも種類が幅広いのですが、この抵抗を入れることで、16Ωの場合で10Ω、300Ωでも25Ωと、とにかく27Ωを上回ることがなくなり、ロードラインもB電圧と定電流値の交点を中心に少し角度が変わる程度ですみます。
さて、実際に製作して……音が小さい!? いや、普通に聴けます。ボリュームを最大近くにすれば……。
これでOKということにできなくもないけど、ちょっと余裕がなさすぎ、負帰還もかけられません。ぺるけさんが計画している5687ヘッドアンプでも、初段にFETを入れることを考えているという話でした。
なお、この時点(エージング10時間程度)の音については、すこぶる良いと感じました。解像度が高く、セパレーションもしっかりしていて、低音もかっちりガッチリ出ています。スペクトラム(特に1stアルバム)って、ちゃんと低音あったのネ。オレ様の耳の質と経験はさて置いて。
製作した、最初の時点の入力部分はこのようなものでした。差動入力段の標準的な形です。
IN>--+ | VR50K<--+------>GRID 1 | | | R560K +->GRID 2 | | | ~ ~ ~
ロードライン上は、グリッド電圧は数Vの振幅を取れるので、ライン信号が最大出力に対して小さすぎるということです。そこで、単段を探していた時に見つけた、タムさん(田村さん)が「12HG7単段シングル」でやっていた、小型トランスをオートトランスとして使い入力を倍にする、という方法を試すことにしました。
IN>-----+ | -+++--)----+ ||| | | ||+--+ VR<--->GRID 1 ||| | -+++--+ | +->GRID 2 ST-17A | | | ~ ~ ~
これで、多少の余裕ができました。まあ、Aカーブの可変抵抗では微々たるものです。
次に、せっかくのセンタータップ付きトランスでプッシュプルなので、これを位相反転に使うよう接続を変更してみます(冒頭の回路図)。
これは変化が大きく、音の広がり、解像度というのか、ずいぶん良くなった気がします。
ここでひとまずは完成です。しかし、このアンプには音量以上に大きな問題……ハムノイズが発生してしまったのです。トランス間の距離の問題(後述)なので、大きなシャーシに間隔をあけてトランスを配置すれば、この点についてはだいじょうぶです。だと思います。きっと。
電源をいれると、小さいけれど「ウゥー」と鳴るのがわかります。左側のほうが大きいです。ぺるけさんの掲示板でこの話をしたところ、B電源の残留リプルが大きいのではないか?という指摘を受けました。やはりぺるけさんのサイトにある、残留リプルの求めかたの計算にあてはめると、14mVという値になります。確かに大きい。これは、120Ω×2段を82Ω×3段にするか、電源トランスから110Vなど高めに取り出し、大き目の抵抗を使えるようになど考えていましたが……。
すると、電源ON直後からハムが聞こえるのであれば、電源トランスの電磁誘導を出力トランスがひろっている、という話が……スイッチ入れるとすぐ聞こえる……真空管を抜いても聞こえる……。ということで、リプルフィルターの問題もそれはそれでありますが、まずは電磁誘導の対応です。
電源トランスはシャーシの底板に固定してあります。上板を外して、シャーシの奥の左側にB電源トランス、右側にヒーター電源トランスがあります……左のハムが大きいのは、明らかにB電源トランスに近いためか! 実際、上板を左右に動かすと、ハムの位置も左右にゆれます。電磁誘導をひろう……これはやっかいです。もっとも、このアンプを作ろうとした初めのころに、東栄の電源トランスでは離さないとこうなる、ということはぺるけさんから指摘ずみでした……。
上板をいろいろ動かしていると、ハムが激減するポイントがあります。上板を底板の横に立てる、普段の状態から90度回転させた位置です。電源トランスのコアに対し、出力トランスのコアが垂直になるよう配置するといいようです。
さっそく、底板に固定して立っている電源トランス×2を、側板から真横に、張り出すように変えてみました。すると、B電源トランスの真上である左側は、普通にしていれば聞こえなくなりました(耳にベタっとくっつけてようやく聞こえる)。しかし今度は右側が明らかに聞こえています。角度はよくても、電源トランスの中心線から外れると、やはり影響を受けてしまうようです。ついでに、時間がたつとトランスの重みで側版が傾いて……。
……で、結局ノグチトランスのPMC-100M(二次側センタータップ付き200-240-280V+ヒーター、4,700円)を買ってしまいました。磁気シールドのケース入りで、上板の出力トランスの裏側にちょうどおさまる大きさなのです。端子を下に出すために大穴を開ける必要がありますが、とりあえずハンドニブラーは前から用意してあります。
ただ、平滑部の抵抗で消費させる電力は、ざっと7.5W……。ぺるけさんの掲示板でも、kasshyさんが、やはりPMC-100Mと5687(ただし2段増幅)という組み合わせでアンプを作った、みずからの「不幸の例」を紹介してくれました。……アンプにヒートシンクが乗っています……25W巻線抵抗……やめましょう(笑)。
センタータップ〜200Vの片側だけ使って100Vにする(これは間違い、半分でも200V)、トランスの一次、二次を逆に使う、整流直後から交流成分だけ取り出してまた整流、0-200Vに高抵抗で中点を作ってセンタータップ整流とか、PMC-100Pから低めの電圧を取り出す怪しげな方法をいろいろ考えましたが、やっぱりどうにもならなそう。結局、今の東栄トランスで、電源部とアンプ部セパレート、という結論(Version 1.1)になってしまいました。PMC-100Mは……まあ、なんか使う機会はあるでしょう。
●部品表
部品名 | 商品名(例) *スペック |
単価 | 数 | 小計 | 備考 | 購入店(例) RD:東京ラジオデパート RC:秋葉原ラジオセンター |
シャーシ | アイデアルCB-70 | 940 | 1 | 940 | W14cm、H7cm、D23cm | エスエス無線(RD2F) |
ゴム足 | 3mmネジ用 | 15 | 4 | 60 | 鈴喜デンキ(RD2F) | |
電源部 | ||||||
電源ケーブル | 2mプラグ付き | 150 | 1 | 150 | 鈴喜デンキ(RD2F) | |
電源ケーブルの留め | 20 | 1 | 20 | 鈴喜デンキ(RD2F) | ||
電源スイッチ | 320 | 1 | 320 | 鈴喜デンキ(RD2F) | ||
ヒューズ | *1.0A | 30 | 1 | 30 | 千石電商B1F | |
ヒューズホルダー | 100 | 1 | 100 | 千石電商B1F | ||
スパークキラー | 岡谷電機産業S120033 *150V以上 |
80 | 1 | 80 | 日の丸無線(RC1F) | |
トランス(A電源) | 東栄変成器J-632 *100V-6.3V 2A以上 |
860 | 1 | 860 | 東栄変成器(RC1F) | |
トランス(B電源) | 東栄変成器Z-02ES *100V-100V 100mA以上 |
1,700 | 1 | 1,700 | 東栄変成器(RC1F) | |
整流ダイオード | 1N4007 *整流用、逆耐圧150V以上 |
15 | 4 | 60 | 10本150円 1N4007は逆耐圧1000V | 千石電商2F |
R | *20Ω/1W | 30 | 1 | 30 | 海神無線(RD2F) | |
R | *120Ω/2W | 30 | 2 | 60 | 海神無線(RD2F) | |
C | *電解100μF/160V | 240 | 3 | 720 | 海神無線(RD2F) | |
アンプ部 | ||||||
入力端子 | *RCAメス赤白各1 | 150 | 2 | 300 | 千石電商2F | |
VRボリューム用 | NOBLE RV24YG *6mm軸50KΩAカーブ2連 |
1,600 | 1 | 1,600 | ナリタ(秋葉原ラジオストアー) | |
VRボリューム用つまみ | *6mm軸 | 640 | 1 | 640 | φ4cmアルミ | 鈴蘭堂(RD2F) |
入力トランス | サンスイST-17A | 370 | 2 | 740 | トヨデン(秋葉原ラジオストアー) | |
R | *51Ω1%/1/2W | 30 | 2 | 60 | 1%がない場合はペアを選別 | 海神無線(RD2F) |
R | *27Ω/1W | 30 | 2 | 60 | 海神無線(RD2F) | |
三端子レギュレータ | LM317T | 100 | 2 | 200 | 千石電商2F | |
絶縁シート | 三端子レギュレータ用 | 10 | 2 | 20 | 千石電商2F | |
ワッシャー | 三端子レギュレータ用 | 5 | 2 | 10 | 千石電商2F | |
真空管 | 7119(NATIONAL) | 2,500 | 2 | 5,000 | 2,500円/1本 | クラシックコンポーネンツ |
真空管 | 5687(PhilipsECG) | 1,000円/1本 | クラシックコンポーネンツ | |||
真空管 | E182CC(Mullard) | 2,800円/1本 | アムトランス(RC1F) | |||
真空管 | 7044(GE) | 1,200円/1本 | 春日無線変圧器(ニュー秋葉原センター) | |||
真空管ソケット | *MT9ピン用 | 360 | 2 | 720 | クラシックコンポーネンツ | |
トランス(出力) | イチカワITPP-3W *8KΩ-8Ωプッシュプル用 |
1,800 | 2 | 3,600 | 1,800円/1個 | イチカワ(通販のみ) |
トランス(出力) | 東栄変成器OPT-10P *8KΩ-8Ωプッシュプル用 |
2,500円/1個 | 東栄変成器(RC1F) | |||
ヘッドホン端子 | *ステレオ | 110 | 1 | 110 | 千石電商2F | |
その他 | ||||||
ラグ板 | 立て4P1L | 6 | 真空管ソケット両側、出力トランス片側 | 千石電商1F | ||
ラグ板 | 平12x2P | 1 | 整流+平滑部 | 千石電商1F | ||
スペーサー | 1cm | 2 | 整流+平滑部 | 千石電商1F | ||
ネジ | 3mm(50本入り) | 85 | 1 | 85 | 西川電子部品1F | |
ナット | 3mm(50個入り) | 85 | 1 | 85 | 西川電子部品1F | |
ネジ | 4mm(50本入り) | 150 | 1 | 150 | トランス固定用 | 西川電子部品1F |
ナット | 4mm(50個入り) | 150 | 1 | 150 | トランス固定用 | 西川電子部品1F |
配線材 | 鈴喜デンキ(RD2F) | |||||
シールド線 | ライン入力〜ボリューム〜グリッド配線 | 鈴喜デンキ(RD2F) | ||||
合計 | --- |
この表は、その店で、その値段で買えることを保証したものではありません。また、すべて購入時の情報です。
●参考資料
ぺるけさん「情熱の真空管」、「Building My Very First Tube Amp講座」と掲示板
タムさん(田村さん)「タムさんのページ」
宇多さん「宇多さんのホームページ」
黒川達夫さん「はじめての真空管アンプ」(誠文堂新光社)