EL34全段差動プッシュプルモノラルアンプ
●経緯
本当は音が気に入っているフローティングOPT超三極管接続シングル方式で、6Wぐらい出せるのが作れればよかったんですが、定電流回路の放熱が大げさになりすぎるのと、じゃあ五極管で定電流というのも安定性が不安だし、定電流側のSG電源もフロートさせないととか考えると面倒です。そうこうしている内に、ついにRogers LS3/5Aを入手してしまい、これがまた今まで使ったスピーカーでは最も能率が低く、6Wだときついかもという。
そんな中、300Bアンプにはまったく問題ないんですが、でも何か作りてぇ的な理由で、ぺるけさんの「平衡型EL34全段差動プッシュプル・モニター・アンプ」(通称「15W版」)を作ろうとか考えました。元の回路が平衡入力だったのを不平衡にするぐらいで、あとは変更もありません(5687をE182CC/7119に変えたけど回路は同じ)。問題は300Bアンプとの兼ね合いか。どちらも余らせるにはもったいない……。
●設計
設計といっても、不平衡にした場合の負帰還抵抗の値をどうするかだけです。
机上計算で、裸利得は20(2SK30A)×12(E182CC)×8(EL34)÷32(OPT 8KΩ:8Ω)=60倍(35.6dB)。負帰還抵抗の2.2KΩは300pFとの位相補正なので元回路から変えないようにして、分圧するもう一方の抵抗をとりあえず100Ωとすると、利得が16.6倍(24.4dB)、負帰還量は-11dBとなって良さそうです。まあ何かあれば200Ωぐらいの多回転ポテンションメータでも入れましょう。
ヒーターは、6.3V/3A巻き線が3組あるので、そのまま1組1本でいいんですが、配線が楽になるのでE182CCを12.6V点火しています。
●製作
出力は300Bアンプの1.6倍になるにもかかわらず、半導体整流、ヒーター交流点火、簡単なマイナス電源、細い出力管となったため、シャーシ面積は4/5足らず(150×250×40)に縮小されました。薄いシャーシだと電源部の電解コンデンサの高さが問題になりますが、カバーを付けること前提で上に出してしまいました。その部分のカバーは、アクリル板で側面4面の枠を作って、それにパンチングアルミ板を貼り付けています。アクリルの耐熱はちょっと心配ですが、触れないほど熱くはないのでなんとか。
シャーシは、初めてラジオデパートB1Fの奥澤の弁当箱を使ってみました。いつものノグチトランスのS-***はここのOEMなのか、同じ作りに見えます。ノグチのより薄手(1.0mm)ですが、側面すべて折り返しがあるし、この大きさ、重さなら強度はノー問題です。ていうか1.5mmですらもう穴あけが面倒だという。
部品集めに関しては、ぺるけさんが頒布してくださっている物はすべてそれに頼ったため、定電流回路は測定の手間もなくほとんどそろいました。甘えんぼさん♥であると言えましょう。EL34は、ラジオデパート3Fのサンエイ電機でSvetlanaペア3,500円という破格の安さでした。電源トランスにはノグチトランスのシルバーハンマートーン版PMC-150SHです。タンゴのハンマートーンとはまったく違う色合いですが、それでもこれならタンゴと組み合わせていいかなという感じです。そもそもタンゴにはこの設計に合う電源トランスはラインナップされてないし。
ハンダ付け作業は、いつもどおり、まずラグ上に素子をすべて取り付けてから、それをシャーシに取り付け部品間の配線を行います。コツと言えば、特にLラグなどはリード線を端子に引っ掛けたらそこをペンチでカシメて、小さくハンダ付けして端子穴の大部分を開いたまま残しておくことでしょうか。すると後で配線材を通すのが楽です。
配線には、今までAWG20を使ってきました(理由は特になし)が、AC100V入力、ヒーター、スピーカーといった電流がアンペア単位で流れる部分以外は、今回からAWG24に変えました。どうせ高めの電圧が出るヒーターは、細めでもよかったかも? この細さなら、皮をむいたより線の先端を、先にハンダで固めておいて、という手が使えて楽です(AWG20だと硬くて曲げられなくなる)。色は、白:電源AC、黒:アース、黄色:DC(B電源など)、赤:DC+信号AC、緑:信号AC、紫:マイナス、となっています。と言いつつ、一部黄色のはずが誤って赤を使ったりしています(定電流のパワートランジスタの線)。
出力段定電流回路の上の47Ω/3Wは買い忘れで、手持ちの51Ω/3Wを使いました。出力段バランス測定用の4.7Ωも、同じく買い忘れで、手持ちの10Ωを並列=5Ωでおぎないました。
●調整
おおむね問題なく、音を出すところまで行きました。配線間違いなどは作成中に気づくことができました。
まず各所のDC電圧を測ると、出力段B電圧が380〜385V程度しかありません。ぺるけさんの作例では、PMC-170と容量の大きい電源トランスとはいえ、同じ回路で411Vまで出ています。出力段定電流回路の51Ω/3Wの両端電圧を測って計算すると、電流が135mA流れているようです。B電圧が下がって電流が増えると、グリッドのクリップが早くなってしまう(そんな大きい音も出さないけど)ので、定電流回路の47Ωと並列の390Ωを削除したところ、121mA、B電圧も395〜400V程度でいい感じになりました。要はツェナーダイオード電圧と抵抗値を事前に調整していなかったからなんですが。
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B1 | 396V | 401V |
EL34共通K | 25.5V | 27.3V |
EL34×2電流 | 121.6mA | 121.6mA |
B2 | 241V | 241V |
E182CC/1 P | 126V | 132V |
E182CC/2 P | 125V | 129V |
E182CC共通K | 17.5V | 17.9V |
B3 | 20.2V | 20.5V |
C | -3.8V | -3.8V |
利得(8Ω) | 16.9倍(24.5dB) | 16.7倍(24.5dB) |
利得(無負荷) | 18.4倍 | 18.3倍 |
DF(ON/OFF法) | 10.9 | 10.8 |
無帰還利得(8Ω) | 75.1倍(37.5dB) | 74.1倍(37.4dB) |
無帰還利得(無負荷) | 106.3倍 | 105.6倍 |
無帰還DF(ON/OFF法) | 2.4 | 2.4 |
負帰還量 | -13.0dB | -12.9dB |
スピーカーRogers LS3/5Aでの自分の300Bアンプとの比較では、中高域に伸びが感じられ、透明感というか硬質な感じがあります。生っぽさは300Bのほうが上か。楽器の300B、歌声のEL34というところでしょうか。この差異は優劣ではないように思われます。
あとはやっぱり、300Bとこれの使い分けをどうするか、か……。