12AX7-12AU7全段差動イヤースピーカードライバー

2005.04.11

 きっかけは、ゆういちさんヒメノさんちで、さんずいさんから譲り受けたというSTAXイヤースピーカーを聴かせてもらって、これはいいということでさっそく注文した、という話を聞いたことでした(ややこしい)。

 要はそれが背中を押す形になって、さっそくイヤースピーカーSignatureドライバーSRM313を試聴&注文し、購入。前から気になってはいたんですよ。ドライバーについてはハナから自作するつもりでしたが、いきなりできるわけでもなくということで、とりあえず製品をゲットしました。

 じゃあひさしぶりに回路でも書くかね、と参考になるサイトを探すと、これが意外と少ない。真空管での自作例ページは5か所もないんではないだろか(日本語限定)。とにかく要件はこんな感じ。

  1. 最大出力はプッシュプルで300Vp-pぐらい?
  2. 振動板に与えるバイアス電圧が580V
  3. 電流はほとんど不要、イヤースピーカーのインピーダンスは100KΩ超

 どれも真空管で作りなさいと言わんばかりです。実際、スピーカー端子につなぐイヤースピーカー・アダプターは、出力トランスの一次二次を逆にしたような、いったん変換したのを戻すような物らしいです。球は12AX7と12AU7の2段で、無帰還約1000倍(60dB=STAX製品と同じ)を狙います。自己盛り上げに、球は先に買ってしまいましたSOVTEK electro-harmonixブランドの黒箱のやつ(現行球派なので)。増幅間では最もポピュラーといえる12xx7を扱うのは、意外にも?これが初めて。特性すら知りませんでした。

 えいやっと書いたのが、下のロードライン&回路図(定数は調整後)。何の変哲もない全段差動です。NFBのかけかたをどうするかちょっと悩みましたが、出力段(ドライバー段?)の、通常なら次段グリッド抵抗にあたる部分から可変抵抗でちぎって、入力団の負側に戻すことにしました。

 NFB以外無調整です。直結でもないし、出力トランスがないから電流アンバランスを気にすることもありません。

 さて、この条件に、前に買って余っていた電源トランスPMC100Mが合うかどうか。結論としては、センタータップを無視して-200V〜+200Vをブリッジ整流用400Vとして扱うことで解決しました。出せる電流は半分になってしまいますが、電流は最終的に23mAしか使わないのでノー問題です(ていうかオーバースペック)。

 整流用コンデンサは、さすがに600Vとかを1個で用意する気もなく、普通の(でも350V)チューブラー型を直列にして使います。容量は半分になってしまいますが、電流が少ない=回路抵抗が大きく、それほどフィルター容量を必要としないため問題ありません。とはいえ、イヤースピーカー用としてどれぐらいまで減らせばいいかわからず、とりあえず出力段で0.01Vを目指してみました。余裕でした。容量はすべて半分ずつでも事足りるかもしれません。

 バイアスは、当初は別に電源回路を用意するつもりでしたが、バイアスのリップルは出力±に対するコモンモード信号なので、あまり気にしなくていい、というぺるけさんのアドバイスにより最初の平滑コンデンサからいただくことにしました。シャーシ内スペースが狭い(後述)ので、部品が減るのは大助かりです。電圧は520〜530Vですが、実際これぐらい出ていればまったく問題ありません。

 製作編。いつもどおり東京ラジオデパートの2階でほとんどそろいます(電源トランスは地下1階)。定電流ダイオードだけはいつも千石電商(端子なども)なんですが、他で見たことないや(秋月は混みすぎ)。33KΩ5Wは精度5%のものを買ったので測定したら、購入6本中、0.1KΩ表示で32.8KΩが3本、33.0KΩが1本、30KΩが2本……まちがいた……だったので、33.0KΩに4.7MΩを並列に抱かせて約32.8KΩにしてやりました。

 材料がそろって実装。しかし、差動プリとサイズを合わせようと、高さは6.5cmあるけど幅が1cm狭い(飾り板で補う)12cmのシャーシを選んだら、これが思ったよりずっと小さい。側面に接する辺は補強で1cm幅とられるので、有効幅10cmしかありません。チューブラーのコンデンサを電源トランスの真上(真下か)を橋渡しさせて、なんとか収められました。こんなに絶縁チューブを使ったのは初めてです。

 最後の段階で、端子への結線が済んでいるPROコンセントとボリュームの、アンプ回路本体への接続を行いました。ここで失敗。PROコンセントの接続で、正負の向きに注意するあまり、左右の注意を忘れちゃって、回路の位置とは逆につないでしまいました。あと少しで完成という段階だったので、めんどくさくてボリュームも左右逆につないでトータルでのつじつまを合わせてしまいました。NFB調整ボリュームが外から見て逆なので、直しておかないと混乱しそう……。

 もっと困った失敗は、スイッチの穴、だったりします。寸法どおり開けたつもりが入らず、上下の引っかかりかと穴を広げていったら、実は左右の出っ張りが引っかかっていたのが原因で、おかげでガバガバに……。とりあえず(エポキシ接着剤が手元になく)コニシG17で固めましたが、今度はなんだか斜めに。強引に引きはがして穴を見てみると、穴が大きいだけじゃなく斜めにもなっていてどうにも。ハンドニブラーで斜めなのを調整して、開きすぎなのはパンチングアルミの切れ端でふさぐ&押さえ込むことで強引に収めてしまいました。見た目アクセントといえばアクセント。……このスイッチ、使うのもう4個目なんだけどねぇ。

 上に書いたように、差動プリにサイズを合わせるために5mm厚アルミ合金を、東急ハンズで買って切ってもらって左右にあててやります。前面にも飾りで貼りますが、穴はボリュームや端子の形に合わせて開けた方がかっこよかったでしょう。まさに装甲車です。清く正しく質実剛健であります。表面はヘアライン……なんてかっこよくなくて揃った擦り傷という感じ……加工をしてあります。

 スイッチの対処に使ったパンチングアルミは、もともと上面の真空管周囲に飾りであてがうための物です。シャーシには冷却穴が多数開いてるのですが、汚いので隠せてちょうどいいです。これぐらい目が細かくて薄いと、穴に沿ってマイナスドライバーで傷付ければ、あとペンチで切れてしまうので、加工は楽だったりします。

 音は、いいですよー。ていうか、実はまだあまりSRM-313での音を聴いてなかったりしますが。近いうちにゆういちさんとこに持って行こう。

Wonder-Ranch by itokei